深夜に鳴る腕時計
影津
第1話
死ぬ夢を見て目覚めた深夜二時。眠りについてまだ一時間しか経っていない。枕元のライトつき時計を見て愕然とする。浅い眠りにも程がある。
しとしとり、しとしとり。
雨の音が窓を這っていく。ときどき隙間風が窓枠を軋ませた。
尿意を催し、トイレに行きたい。けれど、昨夜のことを思い出す。友達から貰った腕時計のタイマーが深夜一時に鳴ったんだ。それは、使わないときは本棚のところに置いてある醤油皿に置いてある。醤油皿を小物置きに使っていた。
その腕時計は安物のデジタルで、タイマーの設定をしない限り勝手に鳴ったりしない。
昨日の深夜一時は起きていてヘッドセットをしながらオンラインゲームをしていた。対戦相手のアメリカ人の繰り出す格ゲーのキャラは馬鹿みたいに強くて、何度コントローラーを床に投げつけたことか。
すると、決まって壁からノックが聞こえる。隣人は騒音常習犯で、自分のことは棚に上げて俺の出す些細な音に対してノックで返してくる。
「悪かったな!」
すると、コンコンコンコンと激しく壁を打ち鳴らされる。
ほんと、言いたいことがあるなら口で言え!
大家さんは常に不在で、トラブルがあっても責任を取りたくないらしい。だから、隣人とは会ったこともないがノック対決を誰も止めてくれない。
デジタル時計が鳴ったのは隣人が俺の部屋の壁をコンコンコンコン激しくやった後だった。特に怖いとも思わなかったし、何で鳴ったのかな? ぐらいの感覚だった。
それが、再び鳴ったのは眠りについた深夜二時。
昨日は夢うつつで、また鳴ったのかと思った。だけど、暗闇で目を開けると俺はベッドで枕に足を置いてることに気づいた。俺は上下逆になって寝ていた。いくら寝相が悪くてもこんなことにはならないっ!
俺は慌てて正しい位置に戻って布団に潜った。
そして、今日である。同じ時刻に目覚めた。暗闇を通って、トイレに行くのがなんとなく嫌な感じがする。
そそくさとトイレをすまして布団に潜り込む。何ともない。早く寝よう。
しかし、いつあの腕時計が鳴り出すかと思うとひやひやする。
肝が小さいかもしれない、あれはただのデジタル時計。鳴ってもピピピピと高く鳴るだけ。
微睡んでいると来た。
ピピピピピピピピピピピピ。
頭まで深く布団を被る。背筋を悪寒が走る。だ、大丈夫だ。あれは、ほっといたら一分で勝手に止まる。
これだけ煩いと、隣の隣人が壁をコンコンコンコンやると思った。そうしてくれた方が心強かった。だけど、今に限ってコンコンコンコンしてくれない。
早く止まれ。早く止まれ。早く止まれ。
願っても、なかなか腕時計は鳴り止まない。二分ほど経った。勝手に止まってくれない。とうとう俺はベッドから這い出して暗闇の中その腕時計を止めた。黄緑の液晶画面が不気味に光る。再びベッドに潜り込もうとしたとき恐ろしいものを目にした。
ベッドには青白い顔をした男が寝ていた。足元に顔。枕に足を乗せて。それが人ではないことは一目瞭然だった。目の部分には真っ黒な穴が空いていたから。
浮足立って俺は部屋から逃げ出した。アパートの外に出ると廊下の蛍光灯が俺から遠のいていく。なりふり構わず飛び出てしまった俺は興奮が収まるまでパジャマ姿の裸足で走った。
帰ることができたのは朝日が登ってから。人に指をさされる前に帰宅すると、ベッドには人型の汗ばんだ染みが残っていた。上下逆さまで。
深夜に鳴る腕時計 影津 @getawake
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