甘い誘惑にご用心

@r_417

甘い誘惑にご用心

***


 甘い誘惑。

 その実態はとても恐ろしく、何とも甘美なものであることは言わずもがな。


 そんな誘惑に今、僕は直面している。


***


 魅惑のフォルム。

 甘美な香り。

 見目麗しく、僕の心を鷲掴みにする存在を前にして、ごくりと唾を飲み込み冷静になろうと躍起になる。


「ちょっとくらい、いいでしょ?」


 そんな幻聴まで聞こえてくる有様。

 尤も、目の前の存在が声を発するはずもなく、ただひたすらに僕の目の前でキラキラと輝き続けている。


 ゲレンデマジックは有名だ。

 銀世界で見る姿、数割増で素敵に見えるという……アレ。


 今、僕は真夜中マジックにハマっている。

 そう、真夜中だからこそ数割増に素敵に見える……たぶん。


***


 今、誘惑に負けるがままに流されたら最後。

 明日の自己嫌悪は半端ないだろう。

 だって、明日は……。


 そこまで考えて、伸ばしかけた手を押し留める。


「えー、私のこと。お嫌いですか?」


 そんな幻聴も聞こえてくる。

 ……聞こえてくるけど、今はダメなんだ!

 どうしてもダメなんだ!


 そんなことを思いつつ、僕は扉をバタンと閉じた。


***


 早めの夕食を済ませ、空腹に近づく真夜中の時間帯。

 目に入るスイーツほど、魅力的な存在もまたないだろう。


 明日は、雑誌の表紙の撮影が控えている。

 体調、スキンケア、全て万端。

 真夜中の完食など、持っての他だろう。


「せめて、昼間ならカロリー消費する時間を作れるんだけどなあ」


 運動してカロリー消費するチョイスをするなら、睡眠時間が削られる。

 スイーツを食べたまま寝るなんて、言語道断。

 どう転んでも悪循環しかないのだから。



【Fin.】

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