真夜中族の人びと【KAC2022 10回目】

ほのなえ

真夜中族の人びと

「はい、どーも!今日が第一回目放送の、真夜中TV(ティービー)!始まりましたー!」

「この番組はですね、夜に主に活動をする真夜中族の皆様へ送る、真夜中族の皆様の生活などを紹介し、真夜中族について語り、深堀りしていく番組ですー!MCはお笑いコンビ『金属探知機』のわたくし、金兵衛と」

「銀次郎でーす!我々もですね、この番組を担当させていただけるということでこの度、真夜中族の一員となったわけなんですけども」

「はいー。とはいえ我々、これまで朝からの仕事はあんまなくてですね。昼に起きて活動しだして…という夜行性に若干近い暮らしぶりやったんで、真夜中族の生活になるにはそんなに抵抗なかったよねぇ」

「お昼はまだまだベテラン芸人さん結構いらっしゃるので、お笑いの世界も真昼族の競争率は高いですからねー。真夜中枠のおかげで冠番組みたいなものまで持たせていただいてありがたいっすね」

「まあ、我々が真夜中族になった話はおいおいするとして、さっそく真夜中族の皆様の生活を見てまいりましょう!銀さん、V振りお願い!」

「はーい、ではVTR…レッツ、まよなかッ!!」


「ふーん、こんな番組始まったのか」

深夜3時0分、帰宅してテレビをつけたたけるが呟く。

「真夜中族のための番組…最近増えたよな。ちょっと前は、金曜でもこの時間帯は深夜用の番組なんてなくて、お昼とかゴールデンの番組の再放送ばっかりだったのにな。もっと昔はそもそも番組すらやってなくて虹色の画面出てたり、やっててもテレビショッピングみたいなのしかなかったし」

健は缶ビールをぐいと一口飲み、ぷはっと息をつく。

「俺は昔っから夜行性だったけど、昔は夜に仕事ができるようになるなんて考えもしなかったから…俺にとってはいい時代になったもんだ」

健が買ってきた雑誌を開くと、今や真昼族と同等数の数に迫ってきた真夜中族の方が給与水準が高いままなのはおかしい、真夜中族の最低賃金の引き下げを要求する、といった内容の記事が書かれていて、健はしかめ面をする。

「何言ってんだ…真夜中族が真昼族と同等数になったのは賃金が高いおかげだろ。それが同じ給料になくなったら真昼族が増えて夜に誰も働かなくなるじゃねーか。今や真夜中族は世界中にいるのに…そんなことになったら日本だけ生産力が低下して周りの国から遅れるのは目に見えてるだろ。そうならないようするにも、今の真夜中族真昼族が半々ぐらいのこのバランスがベストだよな」



「うーん、どうしよう」

深夜3時15分、転職サイトを閲覧している奈津はある項目について悩んでいた。

「働きたい時間帯…かぁ。今までは真昼族として朝から働いてたけど…次の仕事決まるまでのちょっとしたニート期間の間に、生活リズム乱れて夜行性になっちゃったんだよね。今朝起きられるかって言われるとちょっと不安だし…」

奈津は希望する仕事の求人ページを確認する。時給は真昼族の時間帯に比べると真夜中族の方が200円ほど高く、また「真夜中族歓迎!」という文言もあった。

「決めた!真夜中族デビューしちゃお!これから働き続けるならお給料できるだけ高い方がいいし、真夜中族の方が採用率高そうだもんね」



「やっぱ夜遊ぶ方がいいよねー!金曜の夜カラオケ最高!」

深夜3時30分、3人の女子高生が街の中を歩いている。

「うんうん。子供の頃は夜は変な人が多くて危ないからって夜遊び禁止だったけど、今は夜でも街はちゃんとした人が歩いてるから安心だしね」

「日焼けしないし、街中は夜の方がキレーだしね。あーあ、学校も夜間に通えたらいーのに」

「うちのガッコは昼間しか通えないけど、なんか、今ドキ進んでるとこは夜間のクラスも普通にあるんだってね」

「マジ?いーなー」

「そもそもなんでうちの高校は真夜中族の対応してないんだろ」

「小、中学生は成長期だから太陽の光浴びなきゃってことで真夜中族になるの禁止されてるから…それで高校も一応って感じじゃね?」

「でもこれからの時代、学校も夜間通うのも普通になりそうだよね?夜間働く人も増えたんだし」

「だよね、人口の半分真夜中族になってるんだもんね。私も卒業したら真夜中族なろっかなー」

「でもさ、なんか地球環境的にはよくないって話聞いたんだけど。1日中フルで電気使ってるから地球温暖化が進むとかで、真夜中族のせいだって」

「えーでも最近は政府が真夜中に働くの推進してんじゃん」

「そうそう。それに夜は電気ないと何も出来ないんだから、真昼族の方が電気消したり省エネすればいい話だよね」

「ホントそれ」

女子3人は思いつくまま好き勝手なことを喋りながら、賑やかな繁華街を歩いている。



「ただいま…」

深夜3時40分、愛実あいみは小声でそう呟きながら家の扉を開ける。

キッチンを見ると、ラップに包まれている夕飯が置いてあるのが目に止まる。

愛美はそのお皿をレンジに入れ、自動あたためスイッチを押す。

(親がうざくて顔合わせたくないのもあって、真夜中族の仕事始めたけど…家族が真昼族で私が真夜中族だと…ほんとに全く喋らなくなっちゃったな。一人暮らしみたいで気楽かと思ったけど、これはこれで寂しいかも…。でもまた昼の仕事に戻るなんて言ったらほら見ろ反対したのにって小言言われそうで嫌だし)

レンジがチーンと鳴り、愛美はお皿を取り出す。今日の晩飯は愛美の好物のチーズオンハンバーグだ。

(久々に…作りたての食べたいなぁ。親もいつか先に死ぬだろうに、このままずっと別々の暮らしでいいのかな…)



「あぁ〜深夜ラーメン、世界一美味ぇ」

深夜3時45分、正志まさしは光悦の表情で、もやしやらキャベツやらチャーシューやらがマシマシのラーメンをすする。

「店が真夜中族用にどこもかしこも24時間営業になって、いつでも好きなものが食べられるようになったの…控えめに言って最高だなっ」

正志は一息つきながらぽっこり太ったお腹をさする。

「夜中に食べると太るとか言うけど、真夜中族にとってはこの時間が普通の晩御飯の時間になるんだし関係ねぇよな。昔家で深夜カップラーメン食ってた時は罪悪感あったけど…今は皆がやってるから怖くない…ってね」

正志は周りのお客も自分と同じように大盛りラーメンをすすっているのを見てニヤっと笑う。

「真夜中族は健康によくないみたいな話よく問題になってるけど…もうすでにこの体型だし、今さら気にしてられねぇや。よーし餃子も追加しよ…すんませーん餃子1人前追加で!」

正志は店員さんを見つけて手を上げる。



「はい、いろんな真夜中族の皆さんの生活を見てきましたが、どうですか?銀さん、なんか気になったとこありました?」

「うーん、スポーツ好きとしては、スポーツを生で見たいって言ってた真夜中族のおじさんの話が同感でしたねー」

「たしかに、プロ野球もJリーグも、まだ夜中にはやってませんもんね。でもスポーツは青空の下やるイメージがまだあるかもねぇ。夜中は気温も低いし外ではやりにくいとかいろいろあるんちゃう?」

「せやなー。なんか人工太陽を作って人工衛星みたいに打ち上げるって動きもあるみたいやけど、まだ研究段階で実現はまだまだ先やろなぁ。でも試合って室内ならできそうやし、野球とかも1軍2軍じゃなくて、真昼軍と真夜中軍に分ければ1日2試合やって真夜中族が生で観れる試合もやれるんちゃうか」

「お、それええかもな。スタメンメンバーも増えるから、試合に出られる選手も増えるし」

「でも確かに、真夜中族ってまだまだいろんな課題残してるよねぇ」

「ま、そんな感じの議論もこの番組でしたいよね。真夜中族のいいとこはもちろん悪いとこも深堀りしていきたいってゆーか」

「真夜中族が増えた方が、この番組の視聴率上がるから僕らは嬉しいけどね〜」

「おいおいそこは気にせんとやっていかな、真夜中族バンザイ!みたいな番組になってまうで」

「せやなー。僕らも売れたらいつかは真昼族に戻るかもしれへんし…」

「おいおいそれはそれで薄情やな!僕はこんなヤツと違って真夜中族の皆さんの味方ですからねー!」

「あ、ズルっ!こいつ自分だけ好感度上げよった」

「とまぁ、こんな感じで来週もやっていきますんでこれからよろしくお願いします〜!」

「ではでは真夜中族の皆様、ごきげんよう!今宵もまだまだお楽しみ下さい〜レッツ!エンジョイまよなかッ!」


そんなこんなで深夜3時55分、第1回目の真夜中TVの放送が終わった。



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真夜中族の人びと【KAC2022 10回目】 ほのなえ @honokanaeko

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