第15話 片づけ

父が亡くなった後、これからどんな風に生活を維持していくか、母本人と弟と私で考えていかなきゃ。少しずつ、と思っていました。最短スピードで父の元に逝ってしまった母。

倒れたところを発見して、救急搬送。それから、たった4日。

近所に住む叔母に

「長患いはしたくない。子どもたちに迷惑をかけたくない」

いつも母は言っていたそうです。


気持ちの整理がつかないまま、葬儀を終え、一人残った実家のマンションは、こんなに広かった?と言うくらいがらんとしていました。

そしてあちこちを開くほど、どんどん出てくる荷物。

この家財を母の思い出とさよならしながら片付けていこう、と、ぼんやり思っていました。その時はまだ、ぼんやり。

弟のお嫁さんが言った「業者に任せたら」と言う言葉で目覚めました。

専門業者に任せたら、全てゴミになって捨てられます。

思い出も捨てられるみたいな感じがします。だけど、狭い我が家に引き取るのも限度があります。


母の昭和レトロなアクセサリー、私もあまり使わないけど、姪っ子3人もお嫁さんも興味なしでした。

近所に住む母と一番仲良しだった叔母には亡くなった事を伝えずにいました。家族葬だったので葬儀も知らせませんでした。

入院したことだけは知らせていました。

まず、叔母に知らせようと思いました。


来てもらった叔母は、遺影になった母を見て絶句。

「そんな気がしていたの」

深いため息をついて、もう一度叔母は言いました。

「そんな気がしていたの」


母の姉妹は歳を重ねてから近所のマンションに住んで交流していました。

母は五女。叔母は六女。他界した伯母は次女でした。

ショックを受けてる叔母に、使ってもらえるものは譲りたい、私たちで運ぶからと伝えました。


何度もため息をつきながら、

「このブローチは3人で旅行した時にお揃いで買ったのだわ」

「この色好きだったよね。よく使っていた」

「これね、あんたも使って。喜ぶよ」

叔母のつぶやきを聞きながら、

ああ、私は、こうやって母の思い出を偲びながら作業がしたかったんだと気が付きました。

そこに弟が合流しました。


アクセサリー、食器、加湿器、買い物カート、ジャケット、、、、。

「昔はサイズが違ったけど、最近痩せてたから同じサイズの服ね。」

大きなものは難しいので、運べるものを。

叔母は途中で何回もため息をついて、

「逝っちゃったんだね。もう。」

「死ぬ時はぽっくり行きたいって言ってたよ。その通りになって本望だと思うよ」

「もう、私も一人だ」

一緒に泣くとか、落ち込みとかを見せないドライな娘と息子をどう思ったかな、と思います。

「まさか、こんなに早いと思ってなかったんだ。」

「連絡通じなかった時に見に行ってもらったら助かったかもしれない。」

「喧嘩ばっかりしてて、いい娘じゃなかった」

「もっと来ていたらよかった。」

叔父を亡くしてから、叔母はずっと一人で暮らしてきました。

母もそうなると思っていました。

「娘っていいね、って言ってたんだよ。

あんたのくるのを待っててくれたんじゃない。」


そう思うしかないのでしょう。

弟の車に叔母が引き取ってくれた荷物を載せてマンションまで運びました。


翌日、いくつかネットで調べたところに連絡をしましたが、

週末に帰るまでに来てくれるところはありませんでした。

ずっとここに入れるわけではないので、さて、どうしようと考えて、

思い浮かんだのが

ジモティーというアプリでした。

使ってくれる人を探したい。


全て0円。

条件は直接取りに来られること。

早く来てくれること。

だめもとで次々に写真をアップしていきました。

一人で部屋にいると

淋しさと後悔が押し寄せてくるので、何かをしていないではいられなかったのでした。


掲載すると、引き取り手が決まるものは、すぐにオファーのメールが来ます。

ここから、メールが鳴り続け、

思った以上に反応があって正直びっくりしました。

アプリは入れていたけど、普段、ほとんど使わず、開く機会もなかったものです。


同時に、他の人に見られたり処分されるのが嫌なものは、

市の規定通りに分類して捨てることにしました。

たくさんのタンスの中に母の衣類が詰まっています。

きついのが締め付けで嫌だと、

靴下も下着もゴムの入っているところをはさみを入れて切っていました。

なんでこんなことしちゃうのかな、と思っていました。

これは見られたくないな。

たんすの上の引き出しに入れたものは目に入らないからあるのも忘れて

同じものをたくさんしまっていました。

中古の下着の引き取りはないはずで、袋詰めをしながら圧縮。

スラックスもスカートもはさみが入っています。

服は季節ごとに引き出しを変えていた様子ですが、手が届かなくなった上の引き出しの服は着た形跡がありません。

これはよく着ていた、これは見たことがない。

小さくなった母とサイズが合わない私。着れないから、ごめんね。

詰め込み作業中に、なんとなく母のにおいがします。

五感を刺激されて、思い出がよみがえりました。

一人暮らしの母の服はびっくりするくらいたくさんありました。


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実家に帰ったら母が倒れていた 看護師の娘の後悔 onemama @onemama

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