第14話 実家のお片付け・・・おやかた

父を見送って、一人になった母の今後をちゃんと考えなきゃと思ってる矢先に

3カ月であっという間に母が亡くなりました。

年に2回、続けて親を見送るなんて想定外でした。

突然亡くなってしまった母自身も想定外だったと思います。

父が倒れてから年賀じまいをして新年のあいさつも毎年縮小していた母ですが、

弟に頼んでいた喪中欠礼のはがきが数枚出てきました。

今年はじいじが亡くなったから喪中。

その喪中はがきが出されることもなく、私の喪中欠礼のはがきには父と母の二人の名前が並ぶことになりました。


葬儀が終わり、夫と長女が帰宅しました。

私は調整して1週間休みを取りました。

人が亡くなると死亡届や葬儀だけではなく、

様々な手続きに忙殺されます。

父が亡くなった時もそうでした。

母自身は自分で動くことも出来ず、地元に住む弟にほとんどカバーしてもらいました。

弟は、

「遺族年金、一回も受け取る前に死んでしまった。」と悔やんでいます。

今度は住む主を失った家の片付けも加わります。


母は几帳面に記録をつける人でした。

父が亡くなった時も必要な書類や番号、連絡先はすぐに答えてくれました。

あまり開けなかった引き出しを開けると

亡くなる直前までつけていた家計簿、買い物レシートノート、振込済みの用紙がそれぞれタイトルのあるノートから出てきます。

電気、ガス、水道、電話、新聞、管理費。

通知はがきが月別に綴ってあり、使用料は手書きでノートに記録。

押入れの箱には一年ずつ通知はがきがひもで綴ってあり、

10年以上の歴史が。

住所も名前も連絡先も入っている個人情報の山盛りみたいなこの書類をそのまま捨てるのは抵抗があり、マジックで情報を一つずつ消していきましたが無限にあるようです。

母と同じことをする私も領収書や通知を取っておく方ですが、貯め過ぎはいけない、この時思いました。

弟が焼却場まで直接持ち込めば燃やせるというので、持ち込むものは段ボールに詰めることにしました。

他にも父がスクラップしていた名刺、年賀状、職員名簿、親戚の結婚式や葬儀の写真、会葬礼状などそのままゴミに出せないものをまとめると部屋の一角がいっぱいになるほどあります。昔は個人情報に鷹揚だったみたいで考えられないほど住所や生年月日、出身校まで書いた辞典のような職員録が毎年作られていた様子。

母と長女が時々やり取りしているファックスの原稿も箱いっぱい出てきました。

もともと紙袋や包装紙は畳んで押し入れにストックしていたし、古くなったタオルやシーツも小さく切って掃除用にまとめていました。

タオルもシーツも一生分くらいとってあります。

目に見えていた食器や鍋、衣類だけでなく、押し入れや天袋にあらゆるものが詰まっていました。

掃除好きで片付いていたけれど収納場所には物がいっぱい、父や母の歴史と思いが詰まったものが先が見えないほど積んであります。

実家の親の片づけを「おやかた」というらしいです。

生前の母とは、たまに会うと大体口げんかが始まり、物事が前に進まなかったので、

本丸である、今後の生活や、サービスの利用、住まう場の方が大事で物の片づけは二の次でした。

87年の人生には87年の思い出と歴史が付いてきます。

弟夫妻がやってきました。

「居る間になるべく出来るところは片づけたいと思う」

「無理しないで少し休んで。」

「業者に全部頼んだら」

確かにプロに頼んだら、きれいさっぱり片付くのでしょう。

そこまで割り切れない私は、

「わかった。でももう少しだけ気の済むようにさせてくれる。」とお願いしました。


なんだかんだ言っても結局は地元に住む弟にお任せしなくてはいけないので

単なる私の心の整理のわがままです。


母と最期に交わした会話は

「ばあば、どうした。痛い?」

「いたくない」

だったことを後悔しています。

倒れて低体温で意識ももうろうとしていたけれど、

声をかけたら反応がありました。

救急車の要請をして、到着を待つ間、

何故私は後期高齢者の医療証なんか探していたのだろうと思います。

意識があったのだから、隣で手をつないで、

ちゃんと話せばよかった、

今までありがとうと言えばよかった。

脳梗塞でこれからのリハビリが長いかもと思っていた私に、

タイムマシンがあるなら、

先のことじゃなく、今、この時にちゃんと話しておけ!

2日間倒れ多臓器不全に陥っていたけど、

ちゃんと生きて帰りを待っていてくれた母に

出来るだけ話を。

もう、この呼吸器がついて最後まで意識が戻らないんだよ、

そう言いたいです。


亡くなった母を偲びながら、

書いていた日記を読み、

処分する荷物にもお別れを言ってから。

そうしないと自分が母とサヨナラできないと感じていました。


ここに住んでいたら、時間の合間を見てゆっくり進めることが出来るのでしょうが、

帰る日もあるし、

車社会の札幌で、移動手段がないネックは大きいです。


冷蔵庫に貼られた、分別ごみの日程を見て、

計画を立てました。

使えないものは捨てる。

使えそうなものは、どこかで誰かにつかってもらう。

父や母が生きて使ってきた思い出を生かしてくれるどこかへ。


期間限定、「おやかた」が始まりました。

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