真夜中の戦い

月代零

第1話

 少し前から、カクヨムという小説投稿サイトに登録して、小説を書いている。しがないフリーターの俺でも、運が良ければ何者かになれるかもしれない。そんな欲望もちょっぴりある。


 細々と自分のペースで書いていくつもりだったが、ちょうどアニバーサリーイベントの時期に当たったようで、サイトはちょっとしたお祭り騒ぎだ。

 なんでも、2、3日置きに出されるお題に合わせて短編小説を書く、というイベントらしい。参加すると、ちょっとした報酬ももらえるようだ。報酬に釣られて、俺も書いてみることにした。


 600~4000字程度の短編ならチョロいだろうと思っていたが、甘かった。

 まず、お題に沿って書く、というのが案外難しい。「88歳」って何だ。「焼き鳥が出てくる物語」って何だ。そんなお題に合わせて2日か3日ごとに訪れる締め切りに間に合うように投稿する。それが約1ヵ月間、全部で11回出題される。最高にハードな耐久レースだ。


 他の人はどんな作品を書いているのだろう? あらすじやキャッチコピーを流し見ながら、気になったものをいくつか読んでみる。光る作品ばかりだった。ネタも文章も、上手い。

 正直、web小説はあまり読んだことがなくて、どんなもんだろうと思っていたが、才能を感じられる作品がたくさんあった。というか、たまたま見かけて面白いと思ってフォローした作家は、お題が発表されて1時間以内に作品を投稿している。よく見たら上位ランカーだった。化け物か。いや、化け物だから上位ランカーになれるのか。

 

 俺はうんうん頭を悩ませながら、何とかネタを捻り出し、投稿を続けていた。趣味の読書やゲームの時間、睡眠時間も削っている。バイト中もずっとネタを考えている。

 1週間連続でお題クリアすれば、ウィークリー賞がもらえる。とりあえずそれは達成したので、これでやめようかと思った。しかし、俺は今夜もパソコンを立ち上げ、文字を打ち込んでいる。今回のお題は「真夜中」。完走まで今回を入れてあと2回。

 時計を見ると、深夜0時。俺はさっきから書いては消し、書いては消しを繰り返して、ほとんど何も書けていない画面を見つめて、ため息を吐いた。


 やっぱり、もういいかな。


 俺はエディタを閉じると、ここしばらくプレイしていなかったオンラインゲームを立ち上げた。

 パスワードを打ち込み、ログインする。操作を忘れているかもしれない。コマンドを確認しながら、何をしようか考えていると、俺がログインしたことに気付いたフレンドが、チャットを送ってきた。


「おっす。なんか久しぶりじゃね?」

「まあな」


 ある程度付き合いの長いフレンドだが、お互いリアルの詮索はしない。カクヨムのイベントに参加する前は、毎日数時間はプレイしているヘビーユーザーだったため、少しログインしないだけで不思議に思われても仕方ないのかもしれない。


「とりあえず、なんかクエスト行かね? 先週実装された銀龍討伐、もうやった?」


 銀龍討伐とは、高いプレイヤースキルを要求される、最高難度クエストの1つだった。そういえば先週実装されたんだったか、もちろん、行っていない。いつもだったら真っ先に乗り込み、早い段階での攻略を目指すのだが、すっかり忘れているなんて、俺も変わったものだ。

 ざっと攻略情報を確認し、行けそうなフレンドをあと2人誘ってパーティを組み、現地に向かう。


「ま、練習ってことで、気楽に行こうぜ」


 それから小一時間ほど挑戦を続けたが、討伐には至らなかった。


「やっぱそう簡単にはいかないかぁ。また今度やろうぜ」


 そう言って、今日は解散になった。

 緊張感のある戦闘は面白いが、疲れる。俺は大きく伸びをした。

 ふと、俺は何をやっているんだろうと思う。

 ゲームで強敵に勝っても、大してPVの伸びない小説の投稿を続けても、何かになれるわけではない。

 でも、やりたいからやっている。なりたい自分に近付くために。

 俺は再びエディタを立ち上げる。ゲームは少しお休みだ。銀龍よ、また今度。

 完走までもう少し。今日も明日も、真夜中まで原稿に向かってやろう。


                                    了

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