【KAC202210】 お題「真夜中」 耳の届く足音

テリヤキサンド

耳の届く足音

ひたっひたっ


はだしで歩く音が後方から聞こえる。

その音が聞こえないように俺は足を進ませる。

だんだんと迫る足音に俺の足はいつの間にが駆け足になり、最後には全力疾走に変わる。

段々と息が苦しくなり、壁に手をついて、俺は息を整える。

ここまで来れば、大丈夫か?

ホッと一息をつこうとした時、


ひたっひたっ


また、歩く音が聞こえる。

俺はまた駆けだす。

その先には出口の見えない路地。

その中を右、左と方向を変えながら、ひたすらに奥を目指す。

そして、角を曲がった時、その目のまえには袋小路が見えた。

いまだに耳に聞こえる音はだんだんとこちらに近付いていく。

俺は後ろに振り向く。

角から長い黒髪が見えた。


ひたっひたっ


長い髪の間から青白い肌の顔、空洞のような目、縦に長く空いた口が見える。

服装は薄汚れた白いワンピース。

足ははだしで


ひたっひたっ


と音がなる。

俺は後ずさりして、壁へと背中を付ける。

もう、足に力が入らず、その場で座り込む。

目の前にはこの世のものとは思えない女が青白い両手を上げて、俺にせまる。

その手は俺の首にかかって・・・。


 「う、うわわああああああああ!」


俺は布団から飛び起きる。

真夜中の涼しい時間帯にもかかわらず、その背はびっしょりと濡れていた。


 「夢?」


夢であったことに安堵しつつも喉が乾いたので水の飲みに台所に行く。

台所で水を飲んでホッとしたところで寝室に帰ろうとドアを開けると見覚えのないところに出る。

なんだこれはと思う気持ちとは裏腹に足はドアの外へと向いた。

背後でドアの閉まる音がして、後ろを見ると入ってきたはずのドアがなく、そこにはだだっ広い道のみが広がっていた。


ひたっひたっ


あの夢で聞いた足音が聞こえる。

俺は走り出した。

走り出すと入り組んだ路地に迷い込み、またも袋小路にたどり着く。


ひたっひたっ


さきほど曲がった角から足音が聞こえる。

俺は目を閉じようとしたが、瞬きもできず、しかも顔も動かせない。動くのは後ろ向きに動く足のみ。

夢でみた女がまた目の前に来る。

そして、壁に寄りかかって座り込んだ俺の首にその手が伸びて・・・。



 「う、うわあああああ!」


また、俺は夢から覚める。

窓を開けていて、外から涼しい風の吹く真夜中、その背中はまたびっしょりと濡れていた。

今度は何もせずにそのまま、眠りにつこうとする。

眠れない。

一度目を開ける。

するとまた、目のまえには夢で見た道が見えた。


ひたっひたっ


足音が聞こえる。

まだ、この夢からは抜け出せそうにない・・・。

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