A starlit nightー真夜中ー

MACK

真夜中のひみつ


 夜にはひみつがある。


 これは私の以前から持ち続ける持論である。暗闇というのは、真実を隠すのにはもってこいなのだ。

 兼ねてよりたくさんの本に触れ、色々な考えや知識を吸収して来た私でも、夜によって隠されているひみつがまだまだたくさんあると知っている。多くの科学者が研究を重ねても、まだまだ説明できない事もたくさんあって、この私にとっても夜に隠された数々のひみつの答を得るのは永遠不滅のテーマなのである。


 謎を解くのに必要なのは、根気と観察眼。そしてそれを支える好奇心。「重要なのは、疑問を持ち続けること。知的好奇心は、それ自体に存在意義があるものだ。」と語ったのは、



 ……ええと誰だっけ……うーん、うーん、

 ……あっそうだアインシュタインだ! 



 とまあ、私はそのすべてを兼ね揃えているので昨年ついに、夜が隠していた重大なひみつを暴いた。


――サンタクロースはお父さんとお母さん!


 夜遅くまで起きているのは辛かったけれど、落ちそうになるまぶたと戦って必死に観察を続けた結果、判明したのだ。

 私はそれを早速、三歳下の弟に報告をした。弟は全然信じてくれなくて、それでもしつこく言い続けたら、お母さんに「いい加減にしなさい!」とお尻をペシンと叩かれた。解せぬ。世紀の大発見だというのに。


 と、まあまあ天才というのはこのように、迫害を受ける事がある。それ以来私は、夜のひみつが判明するたびに、このように日記、じゃなかった、論文の形で記す事にしたのだ。将来、お父さんとお母さんより大きくなってお尻を叩かれないようになったら、これを学校……じゃなくて、ええと学会? そう学会だ。そこで発表するのだ。夜のひみつを研究している業界は……ええと何って言うんだっけ。検索、「ふるえあがらせること」と。ああ、これだ。


 震撼するだろう。


 楽しみだ。それにしても難しいなこの漢字……。大人になったら総理大臣か大統領になって、十画以上の漢字は禁止するっていう法律を作ろう、未来の子供達のために。こういうのは天才の役目だからな。


 そして今夜、私は新たなひみつを暴くためにこうやって起きている。

 とても眠い。お昼寝をして夜起きていられるようにと計画を立てていたのに、お父さんが急に遊園地に連れて行ってくれるって言うからはしゃぎ過ぎた……。

 最近、おもちゃを散らかしたまま眠っても、朝にかたづいているのだ。お母さんは褒めてくれるけど、私は片付けていないのである。これは夜の新たなひみつだ。夜の不思議はすべて暴かなければいけない。日記……じゃなかった、この論文に新たな項目を追加する準備は出来ているし。


 そんな半分閉じかけた目、うとうとしかけたタイミングで、カタリと音がした。ハッとしたけれど慌ててはいけない。夜のひみつは目をしっかり開けてしまうと、ひみつのほうに気付かれるのだ。ええと、「深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ」みたいなやつ!


 薄目で音のする方を見ると、青い月夜のうすぐらい中、コトコトと小さな音をたてておもちゃが動いているのが見えた。


――そういえば何かの本か歌で、夜におもちゃが遊びだすっていうのあったかも! 今、自分はそれを目撃しているのかもしれない――


 目をこらしたい衝動を抑え、それでも細めて見た先に、小さな裸の人形がコトコトと動きながらおもちゃを片付けているのが見えた。


 その人形は一番下の妹の着せ替え人形。髪の毛を切ったり、お化粧と称しペンでぐりぐりと落書きをされてボロボロだったから、お母さんが捨てると言っていたのだ。だが私はそれを可哀相に思い、自分の部屋に連れ帰ったのだ。

 まるで恩返しをしてくれるように、人形はおもちゃを片付ける。


 すごく感動している間に、コトコトというリズミカルな音が心地よくて、すべてを見届ける事なく私は眠ってしまった。


 翌朝、片付いた部屋の床に、裸の人形がポツンと転がっていた。


「ありがとう人形さん。あなたが夜に頑張ってくれている事は大人になるまでちゃんとひみつにするからね」


 そう語りかけて、裸というのもあんまりだなと、ハンカチを結んでドレスっぽいものを作ってあげた。

 この恩返しで、もしかしたら宿題もやってくれるかもしれないと、よこしまな下心があった事は否定しない。


 その日以来、部屋は片付かなくなって、今日もお母さんにお尻をペシンとやられてしまった。

 読書家の私はあのお話を知っていたのに、思い出さなかった事をとても悔しく思う。それはグリム童話の「小人の靴屋」だ。夜に靴を作ってくれる裸の小人にお礼で服を作ってあげたら、出て行ってしまうあのお話。

 いや、もしかしたら、夜に動いている事を知ってしまった事を言ったのがダメだったのかもしれない。正体を知られると立ち去るお話は多いもんね。


 この夜のひみつの不思議と謎は、次に同じ出来事があったら再検証するという事にする事にした。


 とりあえず次は、夜にとっくみあいのケンカをしているお父さんとお母さんが朝は仲良しというひみつを暴くために、頑張って起きていようと思う。


 え!? なんでみんな止めるの?


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