餌付けのチョコタと懐かない夏井

「お疲れ様、夏井くん。調子はどうだ」

 私は今日も、夏井くんに餌付けする。

 皆に配るのと同じ、いつものチョコレートを差し入れに行く。

「いらないって言ったじゃないですか。来ないでください。迷惑です」

 夏井くんは今日も、私に懐かない。

 絶対に目を見ないし、会話を続けようとしない。

「チョコタは粘り強いなあ。あんなに冷たくされてもまだやってんのか」

 相変わらず観戦を続けている田嶋課長がニヤニヤ笑う。

「ナッツも意地っ張りだな!」

「ナッツ?」

 傍にいた川崎ちゃんが不思議そうに首を傾げた。田嶋課長は彼女にニッと口角を釣り上げた。

「夏井だからナッツ。チョコとナッツで、相性よさそうだろ?」


 私を独り占めして。

 君だけが知っている私でいさせて。

 私を誰よりも甘やかせて。

 特別な一人になって。

 くどすぎる甘さと、強烈な依存性をめいっぱいに込めて。


「チョコレートはいいぞ!」

「部署に帰ってください!」

 私は今日も、君に餌付けをする。

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餌付けのチョコタと懐かない夏井 植原翠/『浅倉さん、怪異です!』発売 @sui-uehara

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