貸し道具屋ポンテムのミミットさんは本日もイロモノ商品を貸し出し中です~封印迷宮都市シルメイズ物語~

荒木シオン

イロモノ商品No.001……猫の手

 ここは封印迷宮都市ふういんめいきゅうとしシルメイズ。

 その中心に巨大な大穴、地下深くへと続く大迷宮をゆうする街です。

 迷宮からは探索者たんさくしゃたちの手により数多くの財宝や人智じんちを超えた品々が発見され、都市はそれらを求める人々で連日活気に満ちています。


 私の店があるのは、そんな街の大通りから少し離れ、いくつもの路地を進んだ先。

 貸し道具屋ポンテム……名前の通り迷宮へいどむ探索者に様々な道具を貸し出すことを生業なりわいとしている小さな店です。


 あつかっている商品は迷宮出土品めいきゅうしゅつどひんや各種工房の試作品、私が自分で作った道具などなど……。

 ちょっと正体不明だったり、いわくがアレだったり、実験段階のアイテムが多いのでその分、ご利用料金はお手頃価格!

 

 そして、一番大事なポイントは! そんな道具たちばかりなので、なんと! 仮に壊れたとしても、使用感を報告してくれれば修理費の請求せいきゅうは一切なし! なんてふとぱら


 探索者さんは色々な道具が格安で使え、私はそれらの各種情報が手に入り、今後の商売にかせる! まさに誰も損をしない素晴らしい考え……のはずだったんですが――。


 ――お店には今日も閑古鳥かんこどりが鳴いています……なんで?!


「う~ん……察するにミミットの店の商品はイロモノ過ぎるんじゃないかな? まぁ、ワタシは好きだけど……」


 店先の机に力なくしていると、数少ない常連客である女性探索者さんが苦笑しながら指摘してきます……。

 深い緑の光沢をもつ希少鉱石、エメラメタルの軽鎧ライトアーマーに身を包んだ、彼女の名前はエスメラルダさん。

 肩口で切り揃えた髪は鎧と同じく深緑しんりょくで、こちらを見つめる瞳もんだ緑色。


「え~? そんなことありませんよぉ~。どれも自慢の品々なのに……」


 そんな彼女へ息混じりに反論すると、


「けど、これとか誰が借りていくのかな? というか、これは……魔導具まどうぐなのよね? 魔術触媒まじゅつしょくばいとかではなく?」


 棚に置かれたそれを手に取りたずねてきます……。

 エスメラルダさんがいぶかしがるのも無理はありませんね……。だって見た目は迷宮生物めいきゅうせいぶつの前足みたいな感じですから……。


「エスメラルダさんも相変あいかわらず、妙な商品に興味を持ちますよね……。それはですね、懇意こんいにしている魔術工房が、とある迷宮出土品を参考にして作った一品ですよ!」


「へぇ~……。なんか色々嫌な予感がするけど、続きをどうぞ?」


 嬉々として机から起きが上がる私に対し、表情を曇らせるエスメラルダさん。


「その名は『猫の手』! かの悪名高き迷宮出土品『猿の手』をどうにか安全に使用できないかと考え、試作された品です!」


「やっぱりヤバいアイテムじゃない! というか、アレを安全に使おうとか馬鹿じゃないの?! あと、ミミットは仕入れる商品を選べ!」


「だってぇ~。気になるじゃないですかぁ~。あの『猿の手』のいわば後継品こうけいひんですよ? 手を出すなというのが無理な相談です……」


「ハァ~……アンタって本当に道具馬鹿よね?!」


「一応め言葉として受け取っておきます!」


「受け取んな! ビタイチ褒めてない!」


 額に手を当て盛大に溜め息をつくエスメラルダさん。

 彼女がこれほど声を荒らげるのには理由がありました……。

 迷宮出土品『猿の手』は四年ほど前に迷宮上層めいきゅうじょうそうで発見された魔導具の一種です。使用すると「三つの願い事を叶える」ことが出来るのですが――。


 ――その代償だいしょうがあまりにも大きかった。


 当時、アイテムを発見し、使ったパーティがまず全滅。次も、そのまた次も……。

 探索者協会が危険性を認知し、使用禁止アイテムに指定するまで多くの探索者が犠牲になりました……。世に言う「猿の手事件」です……。


 けれど、どれほど危険な魔導具でも、その力は本物でした。

 これは非公式情報ですが、遺体無き死者さえもよみがえらせることが可能だったとか……。


 なので、そんな強力なアイテムをどうにかして「とうあつかえる道具」に出来ないか? と考え開発されたのがこの「猫の手」なのです……。


「話は分かった……で、もしかしてミミット、もう使ってみたとか言わないわよね?」


「さっすが! エスメラルダさん! なんでもお見通し――――って痛い?!」


 うたがわしげにたずねてくる彼女に笑顔で答えると、思いっ切り頭を叩かれました……。

 いや、だって……商品の品質確認は必要じゃないですか……ぐすんっ。


「もう一度言うけどアンタ、本当に道具馬鹿よね?!『猿の手』の顛末てんまつを知ってて普通試しに使ってみる?!」


「でも……大分だいぶマイルドでしたよ?」


「そういうことを言ってんじゃない! って、マイルド?」


「はい……マイルド」


 言いながら頷くと、怪訝けげんそうに眉をひそめるエスメラルダさん。


「どうにも商品名通りというか『猫』っぽくて気まぐれ? なんですよね……。試しに二十シルド欲しいって願ったらその日、商店街を歩いていると私が通った瞬間、店先にあった『笑い壺コメディポット』がいきなり笑い出しちゃって……」


「それで二十シルドを手に入れたと……」


「えぇ、でも、おかげで私は使用済みになった『笑い壺コメディポット』を買い取るはめになり、五十シルドを失いました……」


「差し引き三十シルドの損失そんしつというか、代償だいしょうってわけね……欠陥品けっかんひんじゃない、これ?」


「まぁ、でも、あの悪名高き『猿の手』からすれば、代償という点では改善されてると思います……多分。あと、とりあえず『願った結果』はその通りになったわけですし?」


『猫の手』を胡散臭うさんくさそうに見つめるエスメラルダさんへそう言って小首をかしげると、


「結果、結果か……なるほど。ミミット、ちょっとこれ、借りてくわね」


 なにかひらめいたようで、利用料を支払いそのまま店をあとにします……。


「毎度どうもで~す」


 エスメラルダさんの背を見送りつつ、私はいそいそと閉店の準備を始めます。

 だって、今日はもうお客は来ないはずですからね……。

 けど、本当に優しい代償です……まだちょっと頭が痛いですけど……。


 ★     ★     ★


 数日後、『猫の手』を返却しに来たエスメラルダさんは大変お疲れのご様子でした。

 聞けば、道具を使ったおかげで現在とある事情から、環境が不安定な迷宮表層でも迷宮生物を効率よく狩ることが出来たんだとか……。


「猫の手を借りるほど忙しかったわ……」


 と苦笑しながら言うあたり、余程よほど大猟たいりょうだったのでしょう……。

 しかし、なるほどですね……『猫の手』をどう使ったかなんとなく察しがつきました。


 ふむ……商品のキャッチコピーに『迷宮生物めいきゅうせいぶつ誘因ゆういんアイテム』とか書いておきましょうか?

 猫の手を借りるほどに忙しい……なかなか言い得てみょうかもしれません……。


 さておき、エスメラルダさんが無事に帰ってきてくれてなによりです。

 それはそうと、また新商品が入ったんですよ! 今度は『兎の足』っていうアイテムなんですけどね?!


 私が先日入荷したアイテムを嬉々として取り出すと、微妙びみょうにうんざりした表情を浮かべながらも説明に耳を傾けてくれるエスメラルダさん。


 ここは貸し道具屋ポンテム、迷宮探索にちょっとした刺激が欲しい方はぜひ一度お越しください……。きっと面白い商品が見つかるはずですよ!


 ……to be continued?

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