【KAC20229】とある学生の愉快な夏休みの終わり

朝霧 陽月

本文

「あーあー終わらない終わらない終わらない……夏休みはもう終わるのにっ!!」


 今日は夏休み最終日。半泣きになった私の目の前にあるのは、ほぼほぼ手付かずの宿題や課題の数々であった……。


『明日もあるし今日は遊ぼう!!』

『まだ宿題やらなくても平気だよね!!』

『明日やる、明日やるから平気!!』

『いや、まだだ、まだ……いける!!』


 そんなこんなで毎日毎日先延ばしにし続けた結果、夏休みはいつの間にかなくなってしまっていたのであった。


 ぐすんっ、なんで……なんでよ、夏休みくん!!

 あんなにたくさんあったのに、いつまでも一緒にいるみたいな顔してたくせに……勝手にいなくなるなんて酷いよっ!!


 …………はい、すべて今までサボってきた私が悪いんですよね!!

 まっ、そんなことは分かってるんですよ……でもとにかく作業量が多くてね、とても……とてもツラい。


 えーっと、あとは、国語の作文に、数学に化学に生物世界史……えぇ、美術の絵の課題まであるのかぁ。


 残りの数課題を確認して陰鬱な気分になった私の目の前を、すっと一つの影が通り過ぎた。

 飼い猫のタマである。


「あ、タマちょうど良いところに!! よかったら私の宿題手伝ってくれないかな!?」


 猫の手も借りたいというのは、まさにこのことですよ!!

 藁にも縋る思いで声を掛けた私に対し、タマは一瞥だけするとぷいっとそっぽを向いて顔を洗い始めたのだった。


 …………まぁ、そうなるよね知ってたよ。

 猫が夏休みの宿題を手伝ってくれるなんてあるはずないもんね。


「よーし、やるぞー!!」


 そうして私は無理やりにでも気合を入れるために、声を出して改めて宿題に向かい合ったのだった。




 ふふふっ、終わった終わった……大体終わったぞ!!


 宿題を始めたのは朝だったが、それから時間は流れて、もはや日付を超えてから数時間は経過した深夜。

 私はついに夏休みの宿題をやり遂げた!!

 まぁただ一つの課題を除いて……。


 最後の最後に残されたのは、これまたなんとなくアイデアが浮かばなくて、後回しにしてしまった美術の絵の課題だった。


 どうしよう、コレまだどうするか決まってないんだよなぁ。

 とりあえずパレッドに絵具だけ出しておこうかな……えぇーっと、あとは……絵の内容を……。


***


 あっヤバい、いつの間にか意識がなくなってた!?ってなんじゃこりゃ!!


 気が付くと私の部屋や机は、それはそれはカラフルな色で見覚えのない装飾がなされていました。

 …………いや、待てよ、これはよく見ると猫の足跡?

 もしかして、私が出しておいた絵具を踏んで、タマが部屋中を歩き回ったの……!?

 部屋がメチャクチャなのもそうだけど、あの子うっかり絵具を食べたりしてないよね!?


 私はすぐさま部屋を見回しタマの姿を探す。

 あっ、いたいた呑気に寝てる!! 顔に絵具は……うん、ついてないから、とりあえずは大丈夫そうだね。


 するとあとは、時間の確認と美術の課題をどうにか……ってあれ?

 今まで驚いていたり、慌てていて気づかなかったが、よくみると机の上に用意しておいた課題用の画用紙にも、部屋中にあるのと同じ……いや、それ以上の装飾がなされていた。


 ペタペタと押し付けつけられた幾多の肉球に、時折ある荒々しいタッチの線が重なり、抽象的ではあるけど、これはもはや絵として成立してるような気さえする…………もしかして、いけるか?


 確か内容は自由だし、別に抽象画でもいいはず。

 よし、紙もこれしかないし、もうこれで行こう!!


 うーん、そういえば題名も必要だったな……それじゃあこの絵の名前は——


『猫の手を借りた結果』とか、どうかな?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【KAC20229】とある学生の愉快な夏休みの終わり 朝霧 陽月 @asagiri-tuyu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ