借りたネコ型アバターの手は隣の席の厳つめ男子??

椎楽晶

借りたネコ型アバターの手は隣の席の厳つめ男子??

国内外問わず、今は世界中で人気のVRMMO。

その中でも、日本で1番の人気なのが『EDENエデン』だ。


よくあるファンタジー世界が舞台の定番中の定番だけれど、だからこそ根強い人気を誇るゲームになっている。


可愛くデフォルメされたキャラクターなのが、リアル等身で『本物みたい』なゲームの中で異彩を放つ、他にない特色で人気のゲームだ。


リアルなゲームもしてるけど、疲れたら『EDENエデン』で癒さる為にログインするって人もいるくらい、ほんわかしている世界のゲームになっている。


私は高校入学を機会に解禁されて、それから毎日ログインして楽しんでいたけれど、ここ最近はちょっと行き詰まってしまって

キャラの強化のために地道なスキル上げや装備作りの生産続き…。


プレイ寿命を伸ばすために、育成関係はとにかくロングスパンで地道な作業が多い!!

今日も、学校から帰って宿題を終えたら、すぐログイン。

育成のための作業が待っている。



EDENエデン』では、人型・亜人型・獣人型の3種類のアバターがあって

人型は普通の人間。亜人型は、エルフや獣耳ケモミミ。獣人型は二足歩行の動物。


私は自己投影プレイがしたかったので人型を選び、なるべく自分に似た特徴で作成し、名前も本名の『美弥みや』をもじって『ミャー』と名付けていた。


今日も地道にレベルを上げよう、と戦闘区域に向かおうとしていたら

1人の獣人型アバターに声をかけられた。


真っ黒な毛並みにブルーの瞳がガラスみたいな、ネコの獣人アバターだった。


オンラインのゲームをしているけれど、ド初心者が高レベルに『助けて』と気軽に言えないから、と

1人でせっせと育成をしていので、キーボードの接続をしてなくてめちゃくちゃテンパった!!


慌てて返事をしようにも、接続に手間取り間が開いてしまった。


(でも…『こんにちわ』って言われたから、返さないと失礼だよね??)


ドキドキしながら、付属のキーボードを初めて使った初めての『初めましてコンニチワ』をチャット欄に打ち込む。


これが、ネコ型アバターのプレイヤー『ゴロ』さんとの出会いだった。




ゴロさんはサービス開始から遊んでる古参勢で、今のネコ型アバターはサブ垢。

メインのアカウントはガチプレイ用で、のんびり遊ぶ用で『ゴロ』を作ったと言っていた。

名前の由来は飼ってるネコがよくゴロゴロ鳴くから。

見た目もよく似ているらしい。


敬語なのに気さくな話し方で、大人の男の人…少なくとも高校生よりは上っぽい??と、言うのが最初の印象。


『出会い目的で女の子アバターに声かけてくるプレイヤーもいる』って、注意も読んでいたけれど…ゴロさんはそんな感じはなくって、本当にいつも丁寧にアドバイスやクエストのお手伝いをしてくれた。


それでも、正直、暗礁に乗り上げた感のある状態に陥ってしまった…。

どうやら初期ステータスの振り分けと初期職業ジョブが噛み合わなかったらしく、苦戦を強いられている。


たくさん攻略サイトを見て研究して決めたのに、実際に遊んでみると素人には難しい振り分けだったらしい…。

ゴロさんにも『見るサイト間違えたね』と言われてしまった。


まだ序盤だから、いっそ最初からにするべき?

でも、すでにキャラ愛着もあるし…せっかくゴロさんに色々手伝って貰ったし…初めて作ったキャラだから消したくない…と、授業中だと言うのに頭を抱えていた。


授業中でもこんなことが出来るのは、隣の席が校内でも有名な『浅木くん』のおかげだ。


曰く、今時珍しいケンカ番長で暴走族にも所属している、とか

曰く、誰にも負けたことがない最強高校生、とか


そんな噂話も真実味が増す、厳つい雰囲気の男子高校生で、入学したばかりの最初の身体測定では190cmオーバー。

腕や足の太さも、体の厚みも3年生の運動部の先輩にも引けを取らないガッチリとした体型をしている。

無口で無愛想で威圧感が半端ない彼は、授業態度も褒められたものではなく

よく居眠りや遅刻、早退を繰り返していた。


実は、入学初日の自己紹介で『高校からここに引っ越してきた』って言ってたから、中学時代に近隣一帯を支配していた番長って噂は出鱈目も良いとこなんだけど…誰もそれに疑問を持たないくらいに、あっと言う間に広がっていた。


そんな彼が防波堤になって、私の不真面目な授業態度は目立たない。

堂々と居眠りしたりぼんやり座ってるだけな彼の隣では、ノートを広げているだけで優等生に見てもらえる。


窮屈そうにサイズの合わない小さな机に巨躯を収めながら、浅木くんはぼんやりとスマホをいじっていた。

何を見てるのか、ゲームの攻略チャートを考えるのに疲れた私は、

マナーが悪いと分かりつつも『噂の問題児のスマホチェック☆』と、こっそり横目で覗き込んでしまう。


ヤンキーマンガを読んでたり、怖い人と連絡を取り合ってたりするのかな?と、ちょっと期待して見てみると

SNSのタイムラインを眺めているのか、親指が緩慢にスクロールしている。


画面に映っているのは…


(も…モフモフ写真をチェックしてる??)


猫や犬、鳥でも小動物でも種類を問わず、ペットアカウントや動物園アカウントが投稿した動画や画像を眺めては『♡』を押していく。


そして、一通りチェックして満足したのか…今度は自分の投稿を作成し始めた。


何事かを書き込んだ後に添付した画像は、宝石みたいにキラめくブルーの瞳が

印象的な真っ黒な猫。


横目どころか、しっかりと見てしまっていたらしく…フッと目線をよこした浅木くんと思い切り目があってしまった。


相変わらず無表情だし、照れるでも愛想笑いをするでもなく無言で見返してくるので反応に困る。

だからって、ここまで目があってるのに何も言わずにノートや黒板に向くのはなんだか無視するみたいで嫌だったので『ネコ可愛いね』とヘラりと笑ってみる。


もちろん、何も反応なんて期待していないかったけれど…まさか、『ウチの猫』と返事がもらえるとは思わなかった。


なんとなく、最近よく見るアバターと特徴が似てて気になって『名前は?』なんて聞くと『ゴロウ。ゴロゴロよく鳴くから』と返ってきた。


(見た目も名前の由来も似てる…)


でも、黒猫もブルーの瞳の猫も珍しくはないし。猫はゴロゴロ鳴くから、名前の由来が重なることもあるだろう。


なんとなくその時に感じたものを『気のせいだ』と心の奥に沈めてたけれど

しこりとなって消えることなく残り続けることになった。



ゴロさんとは変わらずに一緒にゲームをしている。


サブ垢と聞いていたから、メインの方は良いんですか?と一度聞いたことがあるけれど、そっちはギルド問題でログインしづらいと言われて…深く聞くのをやめた。


夏休みも明けて、2学期に入る頃にはもっと仲良くなっていて

チームメンバー登録をして、ボイスチャットもするようになった。


機械越しに聞く声は、あの日、飼い猫のゴロウの話をしてくれた浅木くんの様な…違うような、曖昧な感じだった。


ゴロさんとは色々なことをおしゃべりした。


どれだけ若くても大学生くらいかな?と思っていたら、同い年だと判明したり

運動部や体育の競技は苦手。でもアウトドアが好きで『山岳部があれば即入部してた』と笑ったり

実は、料理が好きで休日はよく料理したりする、と色々なことを知った。


浅木くんとは、あれ以降にも特に会話はなかったけれど

その後の席替えは数回したのに、なぜかいつも隣の席さった。


小さくてサイズのあっていない机にぼんやり座りながら

スマホでフワモコをチェックし、飼い猫の写真を投稿する彼を横目で見るのが…実は密かな楽しみになってきている。


『体育祭で綱引きと騎馬戦をした』『クラス別の遠足が遊園地で困った』『夏は漁港街の祖父母のもとで過ごす』『調理実習は1人余って先生とペアだった』


ゴロさんが話す近況は、そのまま浅木くんの近況だった。


騎馬戦では誰も近寄れず(怖くて)大活躍だった浅木くん。

遠足では1人、所在なさげにベンチに座りっぱだった浅木くん。

夏休み明け、真っ黒に日焼けしてて迫力増し増しになった浅木くん。

先生とペアだったけれど、1人で全部作って完成させてた浅木くん。


初夏に知り合った、真っ黒なネコの獣人アバターのゴロさんが

隣の席の泣く子も黙る見た目な浅木くんだと、秋も深まった今は確信していた。


昨日のボイチャでは、

『実は隣の席の女子が『EDENエデン』を遊んでるかもしれない』

『時々、育成チャートを書き込んだノートや攻略サイトを見ている』

と、まさかの話のネタで登場してしまった。


今度…もう一度、私の方から『ネコ、可愛いね』ってまた声をかけてみようと思っている。

そして、ゆくゆくは…いつも助けてくれてありがとう、と伝えたい。




全校生徒もビビる、厳つい見た目の男子は、

実はゲーム不慣れな初心者プレイヤーにも懇切丁寧に説明してくれて

初期ステ振り失敗して挫折寸前でも根気よく育成を手伝ってくれる優しい人だった。


あの日、たまたまネコ型アバターの手を借りた結果、意外な真実を知ってしまった私は…次の席替えも浅木くんの隣になれるように、今から祈っていたりもする。

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