【KAC20229】桃太郎と猫

小龍ろん

桃太郎と猫

 昔々、あるところにお爺さんとお婆さんが住んでいました。


 ある日のこと、お爺さんは山に柴刈りにお婆さんは川に洗濯に出かけました。


 そして、なんやかんやあって、桃から元気な赤ん坊が生まれたのです。お爺さんとお婆さんはその赤ん坊に桃太郎というとても素直でわかりやすいどストレートな名前をつけてたいそう可愛がりました。


 たくさんの愛情を注がれて桃太郎はすくすく育ちます。やがて時は経ち、桃太郎は立派な青年に成長しました。


 平和に暮らしていた桃太郎はとある噂を耳にします。なんでも、都に鬼が現れて、家々を荒して回っているというのです。 


 許せない。桃太郎はそう思いました。そして、ついには鬼を懲らしめる旅に出ることを決意したのです。


 お爺さんとお婆さんは心配して引き止めました。しかし、桃太郎の意志は固く引き止めることは叶いません。最後には二人も納得して桃太郎を送り出すことに決めました。


 こうして桃太郎は一人旅に出ました。腰元にはお婆さんが持たせてくれたきびだんごの袋が括り付けてあります。


 きびだんごは桃太郎の好物です。本当は旅の間に少しずつ食べるつもりでしたが、とても我慢できそうにありません。桃太郎は旅立ちから早々にきびだんごを食べてしまうことにしました。


 切り株に腰を下ろして、きびだんごを食べていると、ミャーミャーと一匹の猫が近寄ってきます。どうやら、きびだんごが欲しいようです。


 桃太郎は少し悩みましたが、猫の可愛さには勝てず、きびだんごを分け与えました。ミャーミャーと嬉しそうに鳴く猫を見ながら一緒にきびだんごを食べます。きびだんごはあっという間になくなりました。


 きびだんごはなくなりましたが、桃太郎と猫はすっかり仲良しです。桃太郎は猫に名前をつけて旅のともにすることにしました。名前は猫助。血の繋がりはなくとも、お爺さんとお婆さんのネーミングセンスはしっかりと受け継がれています。


 それから一人と一匹は一緒に旅をします。旅はとても大変でした。原因は主に路銀不足です。食べ物を買うにはお金が必要。桃太郎は自分の見通しが甘かったことを知りました。


 それでも、なんとか旅を続けられたのは猫助という仲間がいたからです。一人では辛いことも仲間と一緒だから乗り越えられます。エサ代は嵩みますがそんなことは些細な問題です。


 やがて、桃太郎は鬼が住むという鬼ヶ島にたどり着きました。そこでは大勢の鬼たちが待ち構えていました。


 勇敢な猫助は圧倒的な劣勢でも怯むことなく立ち向かいます。鬼たちに向けて渾身の猫パンチ。鬼たちには何の痛痒も与えていませんが、それでも猫助は攻撃をやめませんでした。もしかしたら、じゃれているだけなのかもしれません。


 そんな猫助の姿に桃太郎はメロメロになりました。鬼たちもメロメロになりました。猫助が桃太郎と鬼たちの心を一つにしたのです。


 こうなると、もう戦うという雰囲気ではなくなってしまいます。桃太郎はひとまず鬼たちの事情を聞いてみることにしました。猫好きに悪い奴はいないはず。話し合えば問題が解決するかもしれません。


 鬼たちが都を襲った理由を聞いて、桃太郎は憤慨しました。その矛先は鬼たちではなく、都のとある貴族です。なんでも、鬼たちの飼い猫をその貴族が攫って行ったというのです。大切な飼い猫を攫って行くなど、とても許せることではありません。桃太郎は猫好きにも悪い奴がいることを知りました。


 義憤に駆られた桃太郎は鬼たちと一緒に都に向かいます。悪い貴族の屋敷へと乗り込むのです。


 屋敷の前で衛兵たちが立ちふさがりました。何故、鬼の味方をするのかと桃太郎を糾弾します。桃太郎は怯むことなく言い返しました。


「ここの貴族は鬼たちの飼い猫を拉致した悪党だ。猫好きとしては許すわけにはいかない!」


 桃太郎の言葉を聞いた衛兵は動揺しました。近くで聞いていた野次馬からも桃太郎に賛同する声が上がります。どうやら、多くの猫好きは善人のようです。桃太郎は安心しました。


 そのとき、猫助がフラッと屋敷の中へと歩いて行きました。立ち塞がっていた衛兵も猫なら仕方がないと諦め顔です。結局、みんなで猫助を追いかけました。


 追いかけた先には、猫助の他にもたくさんの猫がいました。一見すると楽園のような光景ですが、どの猫も元気がありません。多頭飼育崩壊が起きているのかもしれません。


 あまりの惨状に桃太郎の怒りは頂点に達しました。それは鬼たちも、そして後からついてきた野次馬たちも同じです。多くの善良な猫好きたちの怒りに震え、ついには悪い貴族を取り囲みます。


 圧力に屈した貴族は悪行を白状して謝罪しました。猫たちはみな、どこからか攫われてきたようです。桃太郎たちは手分けして飼い主を探し、どうにか全ての猫を飼い主のもとへと届けることができました。もちろん、鬼たちの猫も戻ってきました。


 猫が戻ってきたことで、鬼たちも都を襲うのをやめました。都の人々も、鬼たちが猫好きだと知って交流を持つようになりました。猫好きの輪が種族の壁を越えて平和をもたらしたのです。


 それを見届けた桃太郎はお爺さんとお婆さんのもとに帰りました。もちろん、猫助も一緒です。一人と一匹はそれからも末永く仲良く暮らしたそうです。


めでたし、めでたし。

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