きっかけ作り

瀬川

きっかけ作り





 僕は知っている。

 君が本当はとても優しい人だってことを。


 通っている高校には、問題児がいた。

 髪を金色に染めて、両耳にたくさんのピアスを開けて、そしていつも喧嘩をしていると噂されている。

 確かに目つきは怖いし、授業をサボって屋上にいるのを何度も見かけた。

 誰かと仲良くしているわけでもなく、いつも一人でいた。一匹狼というやつだ。


 みんな、怖いから学校に来ないで欲しいと言っている。迷惑だとも。

 それでも僕は思うのだ。絶対に優しい人だと。


「そうだよなー。まんじゅう」


 お腹をぐりぐりと撫でると、身悶えながらダミ声で答えが返ってくる。


 まんじゅうは、猫の名前だ。

 野良猫で、よく裏庭でひなたぼっこをしている。

 人見知りしないから、色々な人からエサをもらっていて、いつのまにか真っ白な巨体に成長してしまった。


 まんじゅうという名前は、僕がつけたわけじゃない。

 そしてここまで太らせた犯人を知っている。


「まんじゅう。今日はちょっと騒がしくなるかもしれないけど、我慢していてくれる? 僕一人だと逃げられるかもしれないから」


 言葉が通じているか微妙だけど、いつも同じ場所に寝ているところを見るから、きっとこの場にいてくれるだろう。


 今日、僕は勇気を出してここにいる。

 この場所を選んだのは、まんじゅうに助けてもらうためだ。



 みんなに恐がられている不良の君を、どうして優しい人だと思うのか。

 それは、偶然見てしまった光景が理由である。


「あんなに優しい顔をして笑っている見たら……気になるのも仕方ないと思わない?」


 思い出すだけで顔が熱くなる。

 そんな僕を見て、まんじゅうが呆れたような顔を向けてきた。


「……頑張って話をしよう」


 まんじゅうをだしに使うのは反則かもしれないが、それだけ必死なのだ。

 後ろから足音が聞こえてくる。

 戸惑うように足取りが遅いけど、でもまんじゅうがいるから帰りはしない。


 さて上手くいくだろうか。

 気づかないようにまんじゅうを撫でているふりをしながら、僕はまずなんと声をかけるか必死に考えた。



 それからどうなったのか。

 まんじゅうが更に大きくなって、そろそろダイエットをさせた方がいいと思っているという話で、なんとなく分かってくれると嬉しい。




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きっかけ作り 瀬川 @segawa08

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