猫の手を借りた結果

西紀貫之

猫の手を借りた結果

「まあ猫の舌でナニして受診するひとは多いのですが、まさか手で……。しかし、ふつうの外科や内科じゃなく脳神経外科を受診したのはいい判断です。いっかい脳の精密検査しましょ、ね、脳の」

「いや先生、すっごく痛いんですけど。だって爪がギャイって、爪がギャイって」

「そらァ、引っかかれますよ。雑菌多いですから」

「ちゃんとお風呂で洗ってますよ」

「ちんこじゃねえよ、猫の爪の方だよ」

「イカ好きかな~と思ったんですが、まあ洗いましたね。気分的に」

「猫にイカ食わせちゃイカんでしょ」



「ともあれ、患部見せて貰いましょか」

「笑いませんか?」

「笑いませんとも」

「コレなんですが……」

「目薬のキャップみたいな姿。でもそんなことで笑いませんよ? 医者ですから」

「口に出すなよ人として」

「で、どうしたんです?」

「引っかかれて腫れ上がっちゃって」

……………………」

「笑ってくださってもいいんですよ?」

「笑いませんとも」



「猫に引っかかれたと」

「ここを爪でギャイって」

「おーい顕微鏡もってきてくれ」

「雑菌を見るんで?」

「いや傷口をね……」

「僕のほうが笑えてきますよ」

「あ~、真っ赤になってる。というか赤黒く」

「そこ先っちょです」

「二次性徴しっかり経たンですなァ、ムッキムキですわ」

「いや手術で一皮むいたんです」

「何針縫いました?」

「軟膏塗っただけっすね」



「まあ今回も軟膏塗っときましょう。これを、こう、ね」

「あ、あ、あ、あ、あ」

「ん~、腫れはすぐに引くはずなんですが、なおりませんねえ」

「すんません、おっきくなっちゃいました」

「大丈夫、笑いませんよ」

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