第179話

 再度改めて、レギンだ。



 現在俺達エースは帝国へと訪れた。



 てっきりなんだ、恥ずかしながら俺はパレードで迎えられると思っていた。



 だってそうだろう?



 確かに王国と帝国はつい最近戦争を始めようとしたばかりだった。



 王国のゴタゴタを聞きつけたのか帝国による宣戦布告が発生。



 だが帝国は王国に侵入することなく撤退。



 理由は詳しくは語られないが、邪神教の介入により皇帝が死亡したらしく、戦争自体は回避した。



 だが攻めこもうとした事実が変わるわけじゃない。



 心象は最悪だが、かと言って両者総潰れしてしまえば元も子もない。



 他国含め、身内からも攻められる帝国からすれば俺達のような一騎当千の猛者は喉から手が出る程欲しいはず。



 だから向こうもこちらに応援を頼み、こちらもそれに応える形で派遣されたのが俺らなわけだ。



 だというのに



「帰れ!!アクトグレイス!!」

「お前のようなゴミが神聖な帝国に踏み入るんじゃねぇ!!」

「死ね!!」



 馬車を降りた俺達……というべき一個人に凄まじい罵詈雑言が飛び交う。



 それどころか石やら何やらを投げられる始末。



 確かに俺達ならその程度、ダメージにすらならない。



 だが物理的には効かなくても心には酷い傷がつくのだ。



 にも関わらず



「おい、アルスはどこに行った。桜!!あれほど目を離すなと言っただろ!!」



 当の本人は一切気にしていない様子。



 標的じゃない俺ですらこんなに胃がキリキリしているのに、奴は女の子のことしか考えていないらしい。



 それどころか



「大丈夫大丈夫。危なくなった時用にナパーム弾持たせてるから。危険に思ったら起爆するから場所は一発だよ」

「「それ色々と大丈夫じゃないよね!!」」

「な、なんというか、リーファさんとサムさんて似てますよね」

「……」

「え?トイレ?えっと……もう少し我慢出来る?」



 何故誰一人としていつも通りなのだろうか。



 てっきりあのノアという女の子は俺と同類かと思ったが、どうやら見当違いだったらしい。



 この程度の些事は問題じゃないとばかりの目、あれは地獄を知っている人間の者だ。



「これが帝国……。やはり緊張するな」

「お腹が痛いです」

「だ、だよな!!」



 どうやら俺にも仲間がいたらしい。



 サウスもネイトも周囲の状況に困惑している。



「はぁ、なんでこんなことに」



 そう口にすると同時に、俺は一つ疑問を抱いた。



「あの、シウスさん。どうしてアクトグレイスを連れて来たんです?」



 そうアクトグレイスに聞こえないよう(バレると怖いから)尋ねる。



 同様に周りの目など気にしない様子で鼻歌を歌っていたシウスさんはニヤリと獣のように笑う。



「何故だと思う?」

「強いから、ですか?」

「そりゃ違うな。強さだけならアレがいなくても十分こと足りる」

「た、確かに」



 アクトグレイスは強い。



 最早それを疑う者はいないだろう。



 かつて学園にいること事態に苛立ちを覚えていたが、今となっては評価は真逆。



 今まで力を隠していたのか、それとも突然力に目覚めたのかは不明だ。



 だが、少なくともこの場のメンバーはそんなアクトグレイスに対抗出来る力を持ち得る(俺を除き)。



 だからこそ、何故問題を起こすであろう、というか存在するだけで問題のアクトグレイスを連れて来たのか。



 俺がう〜むと頭を悩ませていると



「頭、大丈夫ですか?」



 いきなり暴言を吐かれた。



 と思ったが、直ぐに違うと感じた俺は否定の言葉を口にする。



「ノアちゃん。心配してくれるのは嬉しいが、その言い方は誤解を生んじまうから気をつけような」

「え?は、はい!!分かりました!!」

「あと返事はそんな大声じゃなくても大丈夫だ」

「は、はいぃ!!!」



 本当に分かってるのかと思いつつも、それすら愛嬌と思える良い子だという印象を覚えた。



 ノア、ロングレス。



 綺麗な銀髪の、俺よか2つくらい年下の女の子。



 俺は人にはあまり言わないが、それなりに人の強さを機敏に感じ取れる方の人間だ。



 そんな俺が断言して言えることは、この子は“ド”がつく程の戦闘の素人だということ。



 ハッキリ言って、何故この部隊にこんな子が案内役として選ばれているのか不明だ。



 帝国の案内なら現地の人だったり、戦闘力のある人間だったり、他にも適任がいたはずだ。



 ハルという女の子も謎だし、サムという奴も未だにフードを外す素振りすら見せない。



 ここまで来れば、さすがの俺もこれがただの友好関係の為の部隊、という考えは消え去っていた。



「はぁ、俺は一体何に巻き込まれちまったんだ」

「あの、お水でも飲みますか?」

「あはは。ありがとう、ノアちゃん」



 癒される。



 そうだ、難しいことを考えることはやめよう。



 この子を守る、俺に出来ることなんてそれくらいだろう。



 ただそれだけに全力を尽くそうではないか。



 それから俺はノアちゃんと雑談しながらシウスさんの後ろを着いて行った。



 時々、何故かアクトグレイスから恐ろしい目を向けられるが、俺何かやらかしたか?



 怖くて仕方がなかったが、それよりも俺の頭を支配していたのは別の言葉だった。



「魔女が帰って来た」



 定期的に聞こえる声と、その度に体をどこか硬直させるノア。



 何があったのか。



 そう聞きたくなるも、果たして出会ったばかりの俺が聞いてもよい話なのかが分からない。



 だが、意外にも先に口を開いたのは向こうだった。



「ノアはその……生まれつき不思議な力を持っていたんです。お恥ずかしい話、昔その力を利用されてしまいまして。本当に情け無い話です」

「ノアちゃん……」



 どう言葉を掛けたらいいのか分からなかった。



 そんなことはない、ノアちゃんを利用した連中が悪いんだ。



 そう言ってやりたくても、じゃあ彼女の力で被害に遭った人達にどう顔向けすればいいのだろうか。



 力には責任が伴う。



 だから慰めの言葉はかけてやれない。



 でも



「なら、これから人の為にすべきことをしよう」

「え?」

「俺はあんまり良い人間じゃないから、人を殺すことも人生で何度かあった」



 思い出したくない記憶が蘇る。



「その度に俺は誰かの命を救うことにした。過ちを取り返すことは決して出来ないが、許されないこともまた決してないと俺は思うんだ」

「なんだか……不思議な考えです」

「そうだな。俺も自分が言ってることが正しいとは思わない」



 それでも、誰かを救ってる間だけは、自分が生きてていいんだって許せる気がするから。



「です……ですね。レギンさんの考え、凄く心に響きました。私、これから人の為に頑張ります!!」

「その意気だ!!いっそ俺達で邪神教でもやっつけてやろうぜ」

「……」

「ノアちゃん?」

「い、生きててすみません」

「ノアちゃん!?」



 その後、なぜか自分を殴り続けるアクトグレイスに説教をされた俺だったのだった。



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ラスボス転生〜愛するヒロイン達に嫌われたい〜 @NEET0Tk

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