兎人のノンナちゃんは諦めないの! ~封印迷宮都市シルメイズ物語~

荒木シオン

少しずつでもいいから前に! 迷宮の出口を目指して、進め!

 失敗した、失敗した、失敗したの!

 どうしてあんな……あんな場所に落とし穴的なわながあるの……。

 迷宮の表層ひょうそう、それもほとんどもぐってない第三層の壁にあんな悪辣あくらつな罠があるなんて誰からも聞いてないの! あぁ……アタシって本当に不幸なの……。


 封印迷宮都市ふういんめいきゅうとしシルメイズ。

 街の中心には巨大な大穴、地下深くへと続く大迷宮が存在しているの……。

 そんな迷宮から発見されるのは数多くの財宝、人智じんちを超えた道具、未知の生物に希少鉱石きしょうこうせきなどなど……。

 手に入れることが出来れば一攫千金いっかくせんきん、地位や名誉も思いのまま! なんて夢に野望を抱き、世界中から集まる迷宮への挑戦者、探索者たんさくしゃたち……。


 はい! ちなみにアタシも大金に目がくらんだ口なの!

 田舎でせっせとニンジン畑を自分でたがやすよりは、探索者になってサクッとガッポリ稼いだお金を元手に人を雇い、ニンジン農園を経営!

 ゆくゆくは茶兎ちゃうさぎノンナちゃん印のニンジンを世界中に販売するという、それはそれは壮大な計画だったの!


 だったのだけどもぉ……。現実は現実だったの、厳しい、世知辛せちがらい。

 まさか最初の探索でこんなことになるなんて……。

 誰なの? 獣人種じゅうじんしゅ、特に兎人ラビットマンは聴力に優れているから迷宮探索では引く数多あまたの人気者! 安心安全に活動を行う上で欠かせない人員です! とか言ったやからは?!


 それを真に受けたアタシがパーティの中で真っ先に罠の餌食えじきなの! 大嘘なの!


 さておき、不幸中の幸いだったのは、あの罠……落とし穴にかかったものの、こうして意外と元気なところなの!

 逆に最悪なのは、ここがどこなのか分からないところ……階層も位置もまったく不明。そう、つまるところノンナちゃんは盛大な迷子なの!


 はぁ……これからどうしよう。

 唯一確かなのは迷宮の様子、ゴツゴツとした洞窟どうくつじみた構造と周囲を照らすほのかな薄緑色の光から、ここがまだ表層であることぐらい……。

 ただ、これがもし表層の最深部まで落ちているとしたら、アタシは多分一人では地上へ帰れない気がするの……。


 まぁ、そんなに深くは落ちていないと信じているの……。

 だって、目立った怪我はないし……。ただちょっと右足首と、左の脇腹が痛いぐらいなの……。

 でも、大丈夫、大丈夫……きっと大丈夫! だってノンナちゃんは強い子だから!


 それに、ほら……仲間たちが今頃、救助を求めてくれているに違いないの!

 さぁ、頑張れ、アタシ! あきらめるにはまだちょっとだけ早すぎるの!

 少しずつでもいいから前に! 迷宮の出口を目指して、進め!


 ★     ★     ★


 はぁ……はぁ……。

 ツラい。しんどい。キツい……。

 右足を引きり、左脇腹の痛みに耐えつつ迷宮を彷徨さまようこと、体感で数時間。

 はい! ノンナちゃんはまだ迷宮内なの! クソめっ!!


 アタシ、これでも頑張ったのよ?

 身体のあちこちが痛いのを我慢がまんし、いつ迷宮生物めいきゅうせいぶつに襲われるともしれない恐怖におびえながら、それでも懸命けんめいに歩き続けたの……。


 だというのに……。あそこから六階層ほど上った今でも地上に着かないとか……。

 あぁ、現実は残酷ざんこくなの……神は死んだ!

 うぅ……パーティの皆、本当にアタシを助けに来てくれているの?


 確かに、知り合って間もない新人ばかりのパーティなの……。

 でも、メンバー全員が優しいそうでいい人ばかりだったのよ?

 

 ちょっと臆病おくびょうだけど意外と押しの強い魔術師のクリスちゃん。

 自身できたえた両手斧りょうておの自慢じまんのドワーフのケムズ君。

 そして、目を輝かせながら探索者についてかた猫人キャットマンのフォルク君。


 ほんの少しの間、付き合っただけだけど……それでもこの街で始めて出来たえのない仲間たちなの……。

 あぁ……出来ればまた皆に会いたいなぁ……。でも、なんだか、段々と意識が……。

 ノンナちゃん、少しだけ……眠くなっちゃったの……。


 ★     ★     ★


 ハッ! ヤバい! 気を失ってたの?!


「おや、起きたのかい、子兎こうさぎ存外ぞんがい悪運あくうんが強いねぇ~」


 意識を取り戻すと同時、耳朶じだを打つどこかしわがれた声。

 視線を向けると、そこにいたのはこの場にいるのが似つかわしくない、杖をついた老婆ろうば


「ヒッ! め、迷宮生物なの!?」


 慌てて腰に差した短剣をさやから抜いてかまえようとすると、


「馬鹿言ってんじゃないよ、子兎! どこからどう見ても、優しいお婆ちゃんじゃろがい!」


 手にした杖で思いっ切り頭を叩かれたの……痛い。


 ★      ★      ★


 それから落ち着いて話を聞くと、このお婆ちゃん、シズルさんは元探索者らしいの。

 あれ? 元? ということは引退しているの? ならどうして今は迷宮に?


「ちょっとした野暮用やぼようさね……。ほら、子兎、次の角を右だよ。曲がったら一旦立ち止まりな……」


 さておき、そんなシズルさんに道案内される感じで、先ほどから迷宮を進んでいるのだけど……。

 なんで私が前を歩いているの? どうせならシズルさんが先導せんどうしてくれたほうが楽だと思うのよ?


「あん? まぁ、いいじゃないか……。それよりもほら、もう先へ進んでいいよ、子兎」


 うながされ、再び歩き出す……。

 う~ん、不思議なの……。

 まぁ、でも、いいの……今は、無事に地上へ戻ることだけを考えないと……。


 ★     ★     ★


 数時間後……やった! やったのよ?!

 目の前に迷宮の出入り口が見えてきたの! アタシ偉い! ノンナちゃん頑張った!

 これも全てシズルさんのおかげなの! そう思い振り返って、


「ここまで、ありがとう! シズルさん! アタシ、無事に――――、あれ?」


 お礼を言おうと思ったのに、そこにシズルさんの姿はなかったの……。


 あれ? 嘘……さっきまで後ろを歩いていてくれたはずなのに……。

 シズルさん、どこに行っちゃったの?


 困惑こんわくしながら周囲を見回していると、


「ノ、ノ、ノ、ノンナだぁあぁあぁぁあああああ!!!!」


「嘘だろ?! あの状況から?!」


「こりゃー、たまげたわ!」


 迷宮の出入り口からってくる三つの人影。

 クリスちゃんにフォルク君、ケムズ君の三人なの!

 って、痛い! 痛いの! そんなに強く抱き締めるものではないの!

 アタシ、これでも怪我人! ノンナちゃん、割と重傷だから!


 三人に揉みくちゃにされて、嬉しいやら痛いやらもう大変なの!


 ふふっ……皆、アタシがどうやって助かったのか気になってるみたいなの……。

 でも、きっと信じないだろうなぁ……。

 見ず知らずのお婆ちゃんに助けられたなんて……そう、きっと信じない。


 けど、お婆ちゃん、シズルさんは絶対にいた……。

 

 シズルお婆ちゃん……私の命の恩人。そして、私だけのヒーロー。


 いつか改めてお礼を言おう……。

 だって、アタシが探索者を続けていれば、また出会える。そんな気がするの……。


 ……to be continued?

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兎人のノンナちゃんは諦めないの! ~封印迷宮都市シルメイズ物語~ 荒木シオン @SionSumire

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