猫の手を借りに
尾八原ジュージ
どこで借りるのよ
シワ取りには猫の手が一番よ、と言った新堂さんの顔は、確かに以前と比べて格段にツルツルで、シミも開いた毛穴もなくって、まるで赤ちゃんのような美肌になっていた。
「猫の手って何よ」
「猫の手って猫の手よ」
「どこかに売ってるの?」
「借りてくるに決まってるじゃないの」
どこで借りてくるのよ、と聞こうとした瞬間、暴走トラックが私の横に突っ込んできて、不幸な新堂さんをぺったんこにしてしまった。というわけで、ぜひともシワをとりたいけれど猫の手の入手法がわからない私だけが取り残されたのだった。
とりあえず、猫の手のことは猫に聞けばいいだろう。そう思った私は、近所に住む野良猫のミーヤンに尋ねることにした。塀の上で眠っていたミーヤンはうるさそうに瞼を開け、「オレはそういうのやってないよ」と言ってまた眠ってしまった。
試しにミーヤンの前脚をつまんでみると、彼はものすごい勢いで立ち上がり、「やってないって言ってるだろ」と言い捨てて物凄い速さで逃げてしまった。
私は諦めてペットショップに向かった。エプロンをつけた女性店員は「わかりかねます」と答えたが、後ろのケージにいる猫たちは皆、意味深にニヤニヤしていた。店員の顔はツルツルすべすべだった。
こいつ、やっているな。そう確信した私は閉店後にペットショップの通用口に張り込み、出てきた店員を拉致して埠頭の倉庫に連れ込んだ。
「ごめんなさいごめんなさい、猫の手なんとかします」
ツルスベの顔にライターを近づけて脅すと、店員は泣きながら白状した。
「何とかしてもらわなくても、どこでどうやって借りるかわかればいいのよ」
「あっ、じゃあええと、あのですね」
そのとき、そこに暴走トラックが突っ込んできて不幸な店員を轢き潰した。後にはふたたび、猫の手の借り方を知らない私だけが取り残された。
かくして私の、猫の手を求める長く険しい旅が始まったのだった。
猫の手を借りに 尾八原ジュージ @zi-yon
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