優しくできる子できない子
白里りこ
保育園にて
保育園には意地悪な子がいて、いつも私に嫌がらせをした。
鬼ごっこにも入れてくれないし、おもちゃも貸してくれないし、おしゃべりもしてくれない。
その子は園児の中のリーダーだったから、他のみんなもその子の真似をして私に意地悪をした。
私は保育園の先生に心配をかけるのが嫌だったから、仲間外れにされても泣かなかったし、黙って手元にあるものを使って遊んでいた。
平たく伸ばした粘土に、道具を使ってひたすら型抜きをして、同じ形の丸い粘土を何十個も作る遊びを、一人でやった。毎日毎日。
何が楽しいのそれ、とその子は言って笑った。
あんたこそ、私に意地悪をして何が楽しいの。どうして意地悪なんてするの。
頭のおかしい子なんだよ、と母は言った。可哀想に頭がおかしいから、心が優しくないんだよ。あなたは心の優しい子のままでいてね、とも言った。
なるほど、と私は思った。
保育園には色んな子どもがいる。
同じ年中さんでも、絵がとっても下手な子とか、先生のお話を聞けないで騒いじゃう子とか、先生のお話を聞いても分からないでものづくりに失敗しちゃう子とか、そんなふうに私より頭の悪い子がたくさんいた。
意地悪な子もそんな感じで、私よりずっと頭が悪いから、人に優しくできないのだ。
ところがある日、新しい子が保育園にやってきた。遠くから引っ越してきたのだという。
その子は私よりもずっと頭が良かった。絵はとっても上手だし、しゃべり方も大人っぽいし、何より人に優しくすることを知っていた。
あんまりよくできる子で、しかも都会から来た風変わりな子だったので、その新しい子はみんなの人気者だった。その子はやがて園児の中のリーダーになった。
私も新しい子と一緒に遊んでもらえた。一緒におしゃべりをしたし、一緒にお絵描きをしたし、一緒に粘土をこねた。
その子はみんなに優しかったけれど、特に私に優しかった。きっと頭が良すぎるから、他の子とは話が合わなかったんだと思う。
私は周りよりちょっとばかし頭が良くて、それに心が優しいから、その子と仲良くなれたんだと思う。
つらいばかりだった保育園生活が、新しい子のお陰ですっかり変わって、楽しいものになった。
私はその子にとても助けられた。その子がリーダーなお陰で私はもういじめられなくなったし、好きなように遊ぶことができるようになったし、鬼ごっこだってできるようになった。
その子はみんなにとって良い友達だけど、私にとってはもっと素敵な友達だった。
私たちはやがて一番の友達同士になった。
とても嬉しいことだった。
この、風変わりで何でもよくできる子が友達だなんて、誇らしいことだった。
その子とは卒園してからは違う学校に行くことになってしまったけれど、私たちは今でも、たまにおうちにお邪魔したりして、遊ぶのを続けている。
おわり
優しくできる子できない子 白里りこ @Tomaten
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます