華々しき生涯

つくお

華々しき生涯

 こんな夢を見た。

 街の中を歩いている。目的は自分でも分からないが、今自分は夢を見ているのだということは分かっている。

 停留所に停まっていたバスに乗る。乗客は他に誰もおらず、運転手もいない。仕方なく、自分で運転することにする。

 バスはデパートの店内を走る。什器をなぎ倒し、ガラスを突き破り、やがて階段口に突っ込んで止まる。

 バスから降りて自分が破壊した道を振り返ると、どこか誇らしい気持ちにすらなる。救急隊が駆けつけて現場は大変な騒ぎになる。

「あなたの仕業ですね」

 救急隊員に問い詰められるが、ほくは違うと首を横に振る。相手はそれを信じて立ち去るが、ぶんぶん振っていた首がそのまま止まらなくなってしまう。

 そのうち首がくるくる回転しはじめる。やがて、ネジが外れるようにして首が体からすっぽり抜けてしまう。

 ぼくは首から上だけの姿になって街をさ迷う。目的は何もないが、夢を見ているのだということは分かっている。

 本物のバスの運転手が、自分のバスを知らないかと言って人に尋ねて回っているのを滑稽な思いで見送る。

 ふいに虫取り網を持った少年たちが現れ、ぼくを捕まえようとする。少年たちは珍しい生き物を捕まえたら懸賞金をもらえるのだと言って必死に追いかけてくる。

 何本もの網が伸びてくるのをかわして、道端に転がり落ちる。そこへ舗装工事をしていたローラー車が来て、危うく轢かれそうになる。

 首から下だけの体が、頭はどこだ頭はどこだと手探りでふらふらやってくる。

 こっちへ来いと呼び寄せるが、向こうは目も耳もないのでなかなか方向が定まらない。なんとか近くまで誘導すると、掴み上げられるより前に足先で蹴飛ばされてしまう。そうやって何度も蹴飛ばされて目が回る。

 ちょうど蹴り出されたところに、またしてもローラー車が来る。今度はぺしゃんこに轢かれてしまう。

「あら、こんなところにちょうどいいものが」

 厚化粧の婦人が、ぺしゃんこになったぼくを見つけてくるくる丸めて家に持ち帰る。

 ぼくは、その婦人の家のリビングでマット代わりにされる。掃除機をかけられたり、猫に糞尿をかけられたり、上で婦人が強姦されたり、熱いコーヒーをこぼされたり、天日干しされたりしながら、ぼくは残りの生涯を波瀾万丈に過ごす。

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