フラワーポット

つくお

フラワーポット

 女はいつも植木鉢を抱えていた。道を歩くときも、買い物をするときも、バスに乗るときもだった。ある花屋が通りかかった女に声をかけ、それは何の花かと聞いた。見たことがない植物だったからだ。女は薄く笑って立ち去った。電車で女と隣り合った老婆が鉢を覗き込むと、土はからからに乾いていた。大事そうに抱えているわりには妙だと思った。

 植物は女の細い腕で抱えるには無理があるほどにまで成長した。針金細工のようにうねり絡まり合う枝に、左右非対称の奇妙な形の葉が不規則についていた。枝葉の様子に気を取られ、女が次第に痩せ細っていることに気づくものはいなかった。

 ある子が公園のベンチに座る女に近づき、その不思議な植物を見上げた。それは離れたところから見ると人の形をしているようにも見えた。子どもは根っこが鉢の底穴から出て、女の腕に深く根を下ろしているのに気づいた。はっとして顔をあげると、女は干からびた顔をして息をしていなかった。

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フラワーポット つくお @tsukuo

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