生前教師

生前教師

　１０４歳まで生きたばばあが死んだ。

　はっきりした遺言はなかったが、古い蔵に何か遺したらしい。金目のものを期待して親族一同で蔵を漁ると、奥に隠し部屋があった。

　出てきた一体の蝋人形を見て一部の親族たちが驚いた。若い連中は顔を知らなかったが、半世紀以上前に若死にしたばばあの連れ合いをかたどったものだったのだ。ばばあが臨終間際に「きょうし、きょうし」とうわ言を言っていたのはこれだったらしい。祖父は生前教師だったのだ。

　蝋人形は額に奇妙な札が貼り付けられていた。期待を裏切られた若い孫が、悪態をつきながらその札を剥がして千切り捨てた。誰かが蝋人形の目が開いていることに気がついた。それは蝋人形ではなかった。