その大規模なお見合いは……

群青更紗

第1話

 今日は大規模お見合いパーティー。と言ってもそれは、新たな出会いではなくて。

 生き別れのパートナーを持つ者たちの、その再会を願う主催者による大規模なパーティー。

 この日のために、主催者は地道に声かけをして回った。

 日々再会を期待して尋ね歩いていた者、既に諦めて隠居していた者。

 一方で、瓦礫の下のような場所で瀕死になっていた者、変わり果てた姿になっていた者。

 主催者は、彼らをひとりずつ丁寧に面談し、ある者は治療し、ある者には手入れを施し、来たるべきパーティーに供えて部屋をあてがい、待機させていた。

――再会、出来るのだろうか。

――本当に、再会できるだろうか。

――無理だ。最後にあいつと働いたのはいつのことだったか。

――あの濁流、いつものことだと思ったのにな。

――いや、あの時、あの係員があんな風に扱うから。

 それぞれがそれぞれの思いを、控室で反芻していた。


 そして、パーティー当日。

 参加者たちは、主催者によってきちんと整列させられ、姿勢良く待機することを求められた。

「……」


 主催者は、参加者たちを見つめる。静かに静かに、上空から――

「――よし!」

 主催者が素早く手を動かし始めた。参加者たちが次々と、ペアにされていく。

「ああ!」

 参加者が一斉にどよめく。

「あなた!」

「おまえ!」

 次々と感嘆の声が溢れる。

「もう会えないと思っていたのに!」

 朗らかな空気。温かな空気。安堵。感謝。そういうったものが一斉に、会場を包み込んだ。

 そしてそれは、誰よりも、主催者が望んだ光景だった。そう、ずっとずっと、もう何ヵ月も前から――


「――ふう」

 好子(こうこ)は大きく息を吐いた。

「おかあさん、なにしてるの?」

 息子の和真が駆け込んできた。ドタドタとした足取りは、実に幼児らしい。

「靴下のペアリング」

「ペアリング?」

「そう。なぜか片方ずつになっていた靴下、いっぱいあったでしょ。あれをみんな再会させたの」

「あ、これぼくの!」

「そう。なーぜーか、おもちゃ箱の裏にあったよ」

「えー!」

 ケラケラ笑いながら、和真は新幹線を模した靴下を手にした。早速履こうとする。

「もうそのへんで脱がないでね。脱いだならペアにしてね」

「はーい」

 和真の返事は上の空だ。好子は嘆息を漏らしつつペアになった靴下を箪笥に片付けるべく集め始めた。

「……お父さんもね」

 同じ部屋の別の角で、別の家事をしていた“お父さん”は、ギクリと肩をすくめた。

「……はい」

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その大規模なお見合いは…… 群青更紗 @gunjyo_sarasa

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