第3話「雀」

「は、なんでそんな急に!」


「女神がその気になったから! あなたに拒否権はありませんっ」


「ちょっ、ちょ! ……まあいいけどさ」


「さてさて。


 汎艶さんよ。


 初めての〰〰、ルーレット〰〰スタート!」


 ガガガガガガガガガガガガ……。


「物凄く嫌な音が鳴ってるんですが?」


 汎艶は顔をしかめる。だがそんなの気にも留めず女神はルーレットに手をかけた。


「雰囲気よ! 雰囲気!


 これからの人生を左右するルーレット!


 そんな大事なものが、簡単に回ってたまるものですか!」


「で、いま回ってるこのルーレットをどうするんだ?」


「どうするって……今からダーツの矢を渡すので投げて下さい」


「分かった」


 女神は、汎艶の近くにダーツの矢を置いた。


 ガガガガガガガガガガガガ……。


 その間も、ルーレットは軋むような音を立てながら回っている。


 そして、段々と速度は増し、ついに最高速度に至った。


 ガラガラガラガラガラガラ。


「――では、汎艶さん! 今です!」


「おら――――――っ!」


 ……じゃねえんだな、これが。


 今の汎艶は女神が魂を預かっているだけなので、本当の意味で手も足も出ないのだ!


「女神! 無理だ!」


「知ってました!」


「趣味が悪い!」


「私は自分のことが一番嫌いです!」


「それはダメだ! 自分を貶すのはよくない! 俺の正義魂が疼く!」


「何ですかその意味わかんない正義感」


 汎艶は誰であろうとも、正義を貫こうとする。


 だが、肝心な所は何もできないようで。女神のことを敬っているつもりなのだが、敬語というものをまるで知らない。


 ガラガラガラガラガラガラ……。


 まだまだまだまだ回るーレット。


 何故だか回転速度は落ちず、留まることを知らない。


「何で回り続けるんだ?」


「私が女神だからです」


「お前が回しているのか?」


「うーん、ちょっと違います。私が女神だからですね」


「? どうして回ってい――」


「私がっ! 女神だから!」


「はあ……」


 汎艶は意味が分からなかった。


『私が女神だから』という理由は、この状況を踏まえると一度納得してしまうが、やはり意味が分からない。


 頭で思考がぐるぐる回って、結論が出そうにないので、結局、汎艶は理解しないことで納得した。


 それを女神も望んでいるだろうと割り切って。


「で、僕は矢を投げれないが、どうする?」


「念じてください」


「ムリだろう」


「じゃあ、仮の体をあげましょう。


 矢が投げられる人間の体です。はいどーん」


 女神が言うと、汎艶は、視覚と聴覚以外の感覚が遮断されたような、何とも言えない感覚から、少しずつもどかしさが消えていく。


 ただ、いつもとは違う人間の姿であったことに不満が残ったが。


「何だこれは……!


 気持ち悪い!


 人間はこんなにも気持ちが悪かったのか!」


「そうですか? 私も人間の姿に近いですけど、気持ち悪いと思ってたんですか?」


「あぁ? お前はきれいだ。美しい。可愛げがあって、素晴らしい女子だ」


 汎艶は人間の姿をしている人間が嫌いなだけなのだ。


「もう……そんなこと言っても転生特典を追加したりしませんからねっ。


 んですけど、それでも心の準備が……。


 ダメダメ。恥ずかしがらずにそんなこと言うなんて、もうダメダメ!」


「一人で何言ってるんだ?」


「な、なんでもないです!」


  何でもないわけがない。女神は結構ちょろい。



 —―がしゃん。突然、ダーツが大きな音を立てた。


「何だ?」


「分かりません。壊れるかもしんないのでちゃちゃっと投げてください」


「適当だな!」


「そんなこと言ってる場合じゃないです!


 ダーツが壊れたらあなた転生特典なしですよ!」


「ごめんなさい!」


「嘘でーす。新品もあるので全然大丈夫でーす」


「女神、てめえな!」


 と、汎艶が拳を振り上げると、手から矢がすり抜けて、ルーレット板に刺さった。


 ――ダンッ!


「あ」「にゅふ」


 そこに書いてあったのは――職業《医者ドクター》。


「はーい、この職業決めルーレット、なんとなんと、《医者》!


 これは傷口をなめることで舐めた場所が完全回復するというやつのやつです! まさに猫にふさわしい!」


「いや犬だろ」


「どっちでもいいでしょ」


「よくねえだろ」


「………………」


「………………」


「もう変えられないの?」


「不可能です」


「このルーレットっ! 意味わかんねえよっ!」


 汎艶は『このくそルーレットがっ!!』ぐらいは言いたい気分だったが、作った人に失礼だと考えて言いとどまった。


「汎艶さん。


 わたくし女神レオニーが、あなたを職業《医者ドクター》として剣と魔法の世界に転生することをここに宣言します。


 以下日本語にて。天界歴暦伍佰萬漆仟弐拾壱節陸拾漆章てんかいれきりゃくごひゃくまんしちせんにじゅういちせつろくじゅうななしょう第2体。死亡年月西暦2022年7月9日。あなたはルール節第3070000番『ランダム転生』にてワールドクラスJVの《アース》からYKの《ガージュ》へと転生します。


 それでは準備段階へ。


 3.2.1.0。


 今、最初に転生する生物を発表いたします。


 汎艶様の転生生物は識別個体クラスG『鳥類』 ―――――――――――スズメ科スズメ目スズメ属。『スズメ』」


 女神は急に機械になったかのような口調でしゃべりだす。


「雀……だと……?」


 よく街で見かける雀を思い出す汎艶。そして叫ぶ。


「雀、歩かねえじゃねえか!!」



※スズメは実際には歩けるのかもしれないがホッピング(両足で飛び跳ねる動き)で移動します。なので汎艶が転生したらぴょんぴょん跳ぶか飛ぶかです、たぶん!


 次回、「ここはどこ?」

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