千佳の水色のメモリーズが今、出会いと別れの次にあるものを紐解く。

大創 淳

第七回 お題は「出会いと別れ」……今語られる水色のメモリーズ。


 喩えるなら、青空のようなスカイブルー?


 喩えるなら、大海のようなマリンブルー?


 どちらとも、……そう、どちらとも解釈できる水色。青春の手前にある色とも? 或いは涙した心の色とも? ちょうどそんな日だった。あの子との出会いがあったのは。


 ――それは、


 転校生という名の、お友達。



 僕が小学二年生。クラスの子に意地悪されて、メソメソと泣きながら帰り道を歩いた雨の日。その心の色は水色……「どうしたの?」と、女の子が声を掛けてきたの。


 その子は黄色の傘をさしていて、水玉のワンピースを着ていて、黄色の長靴。……黄色といえば、僕……その頃はまだ、僕がボクッ娘になる前だから、一人称は『私』……「お揃いだね、傘も長靴も」と、その子はニッコリ笑顔。でも、お初にお目に……あ、いやいや初めて見る顔。クラスの中にも学校の中にも見ない顔で、そう思っていたら……


りん結城ゆうき凛。あなたは?」


千佳ちか……星野ほしの千佳。玉造尋常たまつくりじんじょう小学校の二年生……」


「ありゃりゃ? それって明日から凛が行く学校だよ。何てラッキー。やったね、お友達ゲット。今日から千佳ちゃんは凛のお友達。決定も決定! さあ、何して遊ぶ?」


 って、何でこうなるの? 初めて見るタイプの子。


 強引というか……私が泣いているにもお構いなしで、どんどん自分のペースに引き込んでいく。気が付けば雨も上がって、お空にはレインボー。水色も明るい水色になって、


「じゃあ、また明日ね」


 と、……まだクラスも決まってないのに、もうクラスメイトになったような、さようならの挨拶。そしてその翌日、凛ちゃんは……私のクラスメイトとなった。偶然にも、まるで偶然ではなくて、今日のことを先読みしていたかのように「よろしくね、千佳ちゃん」と、お隣の席。それからは、いつも一緒。初めてだったと思うの、同い年のお話相手ができたこと。おトイレに行く時も、給食も、で、またクラスの子……特に男の子に意地悪されそうになるとね、「千佳ちゃんいじめたら、凛が許さないんだから」と、勇んで立つ。


 勇気凛々なだけに、結城凛……?


 名は体を表すとはいうけれど、偶然……と思う。そういえば習い事をしていた。薙刀の道……見に行ったこともあった。その頃はママと呼んでいたお母さんと一緒に。応援していた。でも、試合に負けて、凛ちゃんは大泣きしていた。それも良き思い出……


 小学校の楽しい思い出……


 楽しい時は、過ぎゆくのも速くて……


 それは突然だったの。いつものように帰り道を歩く、もう小雪がシャンデリアのように輝く季節。お空も低く、水色のお空……凛ちゃんが「千佳ちゃんなんて大嫌い!」って言うの。……何で? って思った。私は言う……「私、凛ちゃんに何かした? 嫌われるようなこと何かした?」と、問うていたことを、今になって思い出したの。


 隠れていた記憶……


 きっと僕は、都合の悪いことは埋めていた。……本当は卑怯な子なの。何で今になって思い出したのだろう? あの時、凛ちゃんの言う通りだった。いい子になろうと、


 ……していたのかな? 何でもかんでも凛ちゃんに合わせていただけの、まるでお人形さん。「千佳ちゃん、本当に凛のやること、好きでやってるの? 本当は、凛の好きなことに、無理して合してるだけなんだ」と、駆け出したの。凛ちゃんは泣きながら。


 凛ちゃんは道路へ飛び出して、そこへ車が……


 宙に舞う黄色い傘……多くの人が集まる。僕は、僕は……涙も足元にも水溜りを広げながら、動けなくなっていたの。その時、何だか僕の悪い心……それだけではなく大切なものとのお別れとなったの。水色のお空はね、赤く染まるの。回転する赤い光……


 突然のお別れ……


 一瞬のことだった。一年も一緒にいたのに、またボッチになっちゃった。でも、ボッチの方が、どれだけ楽だったか。ただ立ち尽くすだけで、何もできずにいたの……


 ――ごめんね。


 その言葉さえも、でも今なら、僕は君に会えるような気がする。色んな人との出会いが僕を変えた……だけではなく、僕の思う僕へと変えていったから。


 今度はありのままの星野千佳で、桜の満開の下、君に会うことができそうだよ……


 今度はお人形さんじゃないから。――ねえ、凛ちゃん!


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千佳の水色のメモリーズが今、出会いと別れの次にあるものを紐解く。 大創 淳 @jun-0824

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