追放されたハーフエルフの少女は拳一つで瘴気は払う
「こ……これは……」
私は目の前の光景に呆然と立ち尽くしながらそう言葉を漏らした。
今、私の目の前には大量の濃い瘴気が蔓延して、かろうじて村らしきものが見える。そんな状態の村の光景だった……
私が助けた……と言っていいのやらいまいち実感がないけれど、ゴブリン達に追われていた少女の名前はアン。彼女はすぐ近くにある村の出身らしく、母親の体調が優れないので、薬草を採取する為に出かけ、採取し終わった所でゴブリン達に見つかって追われていたという。
「なんとか薬草は採取出来ましたが、これでもお母さんの体調を回復させられるかどうか……大元の原因をどうにかしないと……」
「大元の原因?」
「はい……実は……私の暮らす村でかなり濃い瘴気が蔓延し出して……」
拳の女神様と異世界より来た勇者様が、瘴気を世界中に蔓延させた元凶は取り除いたものの、完全に瘴気を無くす事は出来ず、ごく稀に原因はさっぱり不明だが、瘴気が濃く蔓延し出す事があるという。
とは言え、拳の女神様達が活躍していた時のように強く濃い瘴気は滅多に発生しないので、神官や魔力を持つ人ならばある程度の瘴気は払えるのだが……
「私の暮らす村は町からだいぶ離れてまして……実入りもそんなにありませんから冒険者も滅多に来ない上に、唯一ある教会も高齢の神父様がおられるだけで……」
故に、瘴気を払う事が出来ずに、だんだんと瘴気も濃くなっていったせいで、体調を崩す村人が増え、近辺の魔物も凶暴化し、そのせいで大怪我した村人が増えてしまったという。
「お願いします!拳の女神様!どうか!私達の村をお救いください!!お願いしますッ!!!」
地面に頭をつけて必死な様子で頼み込むアン。しかし、私はその懇願に応える事が出来ない。何故なら私は拳の女神様じゃないのだから……ここは正直に話して断るしか……
「大丈夫です!ここにおられる方があなた方の村を救ってみせましょう!!」
突然、ネリネがそんな事言い出したので、私はギョッとなりネリネに詰め寄った。
(ちょっ!?何言ってんの!?あんたは!?私は魔力0で魔法も使えないのよ!?どうやって瘴気を払えっていうのよ!?)
(大丈夫です!お嬢様ならきっと出来ます!それに、いざとなったら私が瘴気を払いますから!)
なんとも根拠のないその言葉に頭痛を覚える私。今ならまだ断われるとアンの方を振り向くが
「本当ですか!?ありがとうございます!!拳の女神様!!!」
目を希望にキラキラと輝かせて頭を下げるアンを見て、私は断る言葉を失ってしまったのだった。
そして、現在冒頭の状況に至るのだが……ある程度小さく薄い瘴気ならアズリアル王国でも度々発生していたので、何回か目にした事はあるが、村全体覆う濃い瘴気を私は初めて目にしていた。
(ねぇ……これ……本当にネリネにどうにか出来るの……?)
私は小声で隣で同じく呆然と立ち尽くすネリネに声をかける。
(いえ……流石にこれだけ濃いと私の魔力では……瘴気と言っても、今更大した瘴気じゃないと思って……本当に申し訳ありません……お嬢様……)
珍しく項垂れるようにそう言葉を発するネリネ。やっぱりネリネでも無理か……そうよね……これ程の瘴気となると、アズリアル王国で1番の魔力を誇るお義母様でないと無理なんじゃ……
「あの……?女神様……?どうかされましたか……?」
何も行動を起こさない私達に声をかけるアン。アンのお母さんだけじゃなく、今あそこにいる村人達も濃い瘴気で苦しんでいるだろう。助けてあげたい。けど、私にはどうする事も……
『出来るよ〜』
そう出来る……出来るのおぉ!!?
『パリ……!絶対無敵無双の拳の力なら……バリ……!頭の中で瘴気を払うイメージを込めて拳を突き出せば瘴気を打ち払えるよ……モグモグ……!!』
って!?そんな簡単に瘴気って払えるもんなの!?って言うかさっきからなんか食べてない!?
『お煎餅よ。食べる?』
「いや!?心の中でどうやって食べろと!?」
「お嬢様!?どうかされましたか!!?」
「あっ……いや……何でもないわ……」
思わず心の中に宿っている何かに声を出してツッコミを入れてしまったけど……本当にやれるかは分からないけど……今、困っている人がいて、私がやれる事があるならやるしかない……!
私は深く息を吸い、頭の中に村を覆っている瘴気を払うイメージをし、拳に全ての神経を集中させ……
「……セイッ!!!」
気合いを乗せたかけ声と共に拳を突き出す。果たして本当にこれで、目の前に広がる瘴気が払えるのか……
ゴオォォォォォ〜ーーーーーーー!!!!
私が拳を突き出したすぐ後に、また再び巨大な風が巻き起こり、その風が村全体に覆っていた瘴気を吹き飛ばしていく。その風は村の建物やら何やらを吹き飛ばす事なく瘴気だけ吹き飛ばしていく。
そして、あら不思議。1分も経たない内に先程まで濃く蔓延していた瘴気が綺麗サッパリ消え去り、村の姿が私の目にバッチリ映っている。
「凄い!!流石は私のリアナお嬢様ですね!!」
「やはり!?貴方様は拳の女神様だったのですね!!ありがとうございます!!ありがとうございます!!」
ネリネは私に賞賛の言葉を送って私に抱きつき、アンは額を地面につけひたすら感謝の言葉述べ続ける。
が、そんな2人とは反対に、私は自分でやった目の前の出来事が信じられず、再び呆然と立ち尽くすしか出来なかった……
追放されたハーフエルフの少女が拳の女神と呼ばれるまで 風間 シンヤ @kazamasinya
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