【後編】ゼルガ侯爵の愛し方と侯爵夫人の愛し方

※最後のほうにぬるいですが直接的な性的表現があります。読まなくても支障はありませんので苦手な方はUターン!

〜〜〜〜〜




「おかえりなさいませ」


「ただいま。サナーリア。」



夫人と使用人たちが出迎えてくれたエントランスで、ほんの数時間仕事で離れていただけなのにまるで1年は会っていなかったかのような熱い再会をしてみせる侯爵。邸の者たちはもう慣れているので微動だにしない。



「今日は何をしていたの?」


「そうですね、お庭を見てまわって、シャロルさんに手入れを教わっていました。」


「そう?」


「はい。」


「それで?」


「それ、で?」



あの話が出てこない。昼間、確かに商会の人間が邸に来ていた。その話をしない夫人。侯爵は、だいぶ斜め上に勘違いをはじめた。



「ほかには?」


「ほか、ですか。部屋で本を読んだり刺繍の図案をまとめたり、しましたけれど…」


「誰かに会わなかった?」


「だれか、ですか? お邸の方々には、それは、会いましたけど」


「…そう」



周りは、冷えていく空気を感じ取って石になっている。何も見えない聞こえない。私は石。道端の小石。ただそこに在るだけの石だ。


その中で、心配そうに見ているのは執事のローレンツ、元伯爵家の次男だった男だ。現在は齢45、白髪混じりの髪の毛をきれいに揃えオールバックにしているナイスミドル。邸の料理場で働く同い年の妻と、結婚して地方へ移り住んだ20歳の娘、騎士団に入った息子が一人いる。


ローレンツは、知っている。


侯爵邸の執事なので邸のなかで知らないことはない。

そう、この邸のいたるところにある、離れていても可愛い妻を見たい時に見れるようにと侯爵が取り付けた監視カメラの存在を、ローレンツは知っている。


もちろん、侯爵は仕事中にいつでも見ているわけではないので、今日も最初は気にしていなかった。しかし、夫人が邸の者以外の誰かと会ったことを確信して言葉を発していることから、運悪く、丁度商会の人たちが来ていた時に見ていたのだろうと、ローレンツは気づいたのだ。


しかし、だからといって一執事が口を挟むわけにはいかない。侯爵は夫人にないしょで監視しているのだから。


――夫人は、侯爵にないしょで商会を呼んだのだから。



「私に隠し事をするなんてね。」


「隠し、ごとですか?」


「男でも連れ込んでいたのかな?」



侯爵の目が、キラリと鈍く光る。獲物を見る目だ。

商会が来ていたのなら買い物をしたと言えばいいのに、来たこと自体を隠した。イコールやましいことがある。イコール浮気だ! という謎の単純思考だった。



「シュワルツさ、ま?」



不安そうに見上げてくる夫人はとても可愛いのだが、ここでそれは逆効果だった。



「お仕置き、だね」



気づいた時にはもう遅かった。夫人は担ぎ上げられ、侯爵は寝室へ一直線。止めるものは誰もいない。そんな恐ろしいこと一介の使用人にはできない。普段は優男風に見える見目麗しい侯爵だが、中身は病んでる系の困ったちゃんなのだから。

そんな侯爵だが、夫人のことはものすごく愛しているから、一同は、酷いことにはならないだろうと、なりませんようにと、祈るばかりだった。



その後、何かあってはまずいと扉の外で代わる代わる様子を窺っていた使用人たちは、一晩中夫人の嬌声を聞かされ続けたとか。

これもいつものことなので、夫人に申し訳ない気持ちになりながらも皆職務をまっとうした。

明け方前には、部屋の中から声は聞こえなくなった。




朝になると、侯爵は部屋から出てきた。夫人はまだお休みとのこと。侍女には、夫人を好きなだけ休ませてくれと#言伝__ことづて__#て王宮へ向かった。とても機嫌がよかったそうだ。袖には真新しいエメラルド色のカフスがつけられていた。


昼前に侍女が様子を見に行くと、夫人はベッドに座り、ぽや~とした様子でいたとか。

湯浴みをすすめ、ひと通りお世話をして軽い昼食を出す。そしてティータイムの時間になってようやく、夫人付きの侍女・フィーネが昨夜のことを聞き出すことに成功した。



「大丈夫よ。今度の婚約記念日の贈り物をサプライズでお渡ししたかったから、商会の方を呼んだこと黙っていたじゃない? それで少し勘違いなさって。疑われたままというわけにはいきませんから話してしまったわ。プレゼントももう渡したの。皆にはせっかく協力してもらったのに……ごめんなさいね。」



儚げに、そう言った。



「喜んでくださったからよかったわ。でもシュワルツ様は、なぜ知っていたのかしらね? たまたまどなたかに、侯爵邸に出入りがあったことをうかがったのかしら。」



貴族街はそれなりに人通りがありますからね、と傍に控えていたローレンツは苦い顔をしながら言った。












~~~~~


「昨夜のサナーリアはとても可愛かった……。いや、いつも可愛いのだけれど、サプライズで私を喜ばせようなどど……なんて愛らしい……ああ……サナーリア……。」



侯爵はおもむろに、くだんのリモコンを取り出し寝室を映した。サナーリアはもういない。リモコンのあるボタンを押すと、映像が乱れて巻き戻っていく。まさかの録画機能付きだった。



「そう、この時のサナーリアが最高に可愛くて……」



昨夜まで巻き戻して再生したのは、ちょうど夫人が侯爵の責めに耐えきれなくなってサプライズをバラしてしまったシーン。



『だから……っ、プレゼント、を……』


『そうだったの……よかった。』


『ねえお願い……シュワルツさまぁっ……もう……』


『ああ、可愛いサナーリア。いいよ、イかせてあげる……。』


『んっ……あああぁぁっ……!!』



仕事中だというのに、いや、ひと息ついているところとはいえ昼間から執務室で見るものではないと思うが、侯爵はこのシーンを何度も見返し、果てには、侯爵の侯爵を取り出し自身の手で上下に擦り始めた。



「ああっ……サナーリアっ!」



そして白濁を吐き出し満足したのか、全てをきれいに整えて仕事に戻った。



数日後、シャロルさんの元には、棘付きの薔薇は全て植え替えるようにという指示書が回ってきたとか。



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