後編

「まずは国王陛下、この場を乱してしまったことを謝罪いたします。申し訳ございません。発言を許可いただきたく存じます」


「なに、そなたのせいではない。」


「ありがとうございます。では、引き続きこの場で不名誉を挽回する発言をお許しいただければ幸いと存じます。」


「許そう。」



そして王妃さまやご列席の皆様方にも、この場を騒がせた謝罪をしました。


しかし、よくもまあ国王の御前でこのような振る舞いができるものだと、ブロー令息には呆れますわね。



「サナーリア嬢の祖父であるガーゾナー侯爵は我が国の英雄であるからな。英雄の名に傷がつくなどあってはならん。」


「ありがとうございます。」



余談ですが、祖父であるシン・ガーゾナーは先の大戦の大変なる功労者であり侯爵位を賜っております。もともと先祖も、武功を立てて国に尽くしている武将ばかり。義父にあたるジョン・デイドストーザも騎士団の要職についています。実父であるザバラン子爵は、働かない男でしたが今は…今のことは知りません。興味もありません。


さて、それではとんちんかん発言を一つずつ確認していくとしましょう。



「さて、よろしいでしょうか? ブロー令息」


「なんだ偉そうに! 言い訳など聞きたくないわ!!」 


「それでは話が進みません。とりあえずお黙りください」


「んなっ…!」


「サナーリア嬢の話を聞くのだ」



国王からの援護により、ブロー令息はおとなしくなりました。これでゆっくりお話できますわね。



「そもそもわたくしが“嫉妬”してそこのお嬢さんに嫌がらせをしたとのお話でしたが、なぜわたくしが貴方と彼女に嫉妬する必要があるのでしょう?」


「婚約者であるオレが、優秀な妹と仲良くすることが気に入らなかったのだろう」


「まず貴方はわたくしの“婚約者”ではありませんし、そちらの方は存じ上げませんが、わたくしは成績で言えば学院トップです。なのでいくら優秀であろうとそれが理由で嫉妬はしませんわね。そして“妹”とおっしゃいますが、幼少期に会ったことあるだけで今まで忘れていましたし、わたくしはデイドストーザ家の娘です。ザバラン家に籍はありません。ですから、妹というなら元妹ですわね。」


「…は?」


「サナーリア・デイドストーザと申します。」


「ザバランでは、ない?」


「そうです。」


「し、しかしザバラン家の長女であるサナーリアと私は婚約しているのだ! ブロンドで碧眼の!」


「それはあり得ません。まずザバラン家に籍はありませんし、わたくしはデイドストーザ家のサナーリアとしてこちらのシュワルツ様と婚約しています。」



うしろで見守っていてくださったシュワルツ様。見守っていないでさっさと助けてくださればよろしいのに、面白がっていましたわね。先ほど笑っていらしたのは後ろ目に見えていましてよ。



「それは一体どういうことだ?!」


「こちらがお聞きしたいです。」


「オレの婚約者は誰なんだ!」


「わたくしは存じ上げません」



なんにせよ、わたくしが婚約しているのはこちらのシュワルツ・ゼルガ侯爵様です。若くして侯爵位をお継ぎになって今では立派に御領地の運営をなさっておいでですわ。王宮でも財務部署にお勤めされています。素晴らしいかたです。少し、人をからかって遊ぶクセがありますところが玉に瑕ですけれど。それが息抜きだと仰いますから、わたくしは怒るに怒れません。



「まあ、シュワルツさまとおっしゃいますの?」


「ト、トリステル?」



先ほどまで、なにやら怯えているような様子でブロー令息の後ろから体半分出してこちらを伺っていた元妹が、令息を押し退けて満面の笑みでしゃしゃり出てきましたわ。



「まあまあまあ!なんというステキなかたでしょう!」


「ト、トリステル??」


「わたくしはトリステルですわ。仲良くしてくださいましね!」


「ト、トリステル???」



令息、先ほどからすべて同じ反応になっていらしてよ? 大丈夫かしら。いえ、そんなことよりこの女(元妹)、初対面の格上に向かってなんという礼儀のなっていない振る舞いでしょう。

さすがのシュワルツ様も…と思いましたが楽しんでいるようですわね。



「君は、サナーリアの義妹なの?」


「そうですわ。その性悪女の…」


「へえ、性悪ね」



下位から上位へ、許可なく発言した場合は不敬罪に当たります。まあその場合は上位のかたがお許しにならなければ、ですけれど。


シュワルツ様はどういうつもりでしょう。元妹に擦り寄られそうになるとすんでのところでサラリと身を翻しております。かわし方が面白いですわ。



「シュワルツさま、お姉さまはとってもいじわるですのよ。わたくし一緒に住んでいる時すごく虐められていたんですの」


「…ほう?」



何を言い出すのやらこの女(元妹)、虐められていたですって。わたくしの記憶では、そんな暇ないくらいすぐに、息子の行動が非常識だどおじいさまが乗り込んでいらしたと思いますけれど。


しかし、女(元妹)はシュワルツ様に興味を持ってもらえたと目を輝かせ、前のめりでわたくしの冤罪をどんどん投げてきました。



「学園でも、教科書をやぶられたり、わたくしのお友だちに無視するよう言ったり、先生に言ってテストの点数を低くしたりするんですの!」



ざわざわ―



周りがざわついています。「あの子嫌われているから…」「勉強なんてしているところ見たことがない」「したくないからって教科書めちゃくちゃにしてなかったかしら?」…そんな声が聞こえてきます。



「お友だちはこう言っているけど?」


「そっ、そんなっ…」



シュワルツ様が問います。すると女(元妹)は涙目になって、キッとこちらを睨んできました。



「お姉さま、ひどいです…」


「トリステル…」



何故わたくしが何かしたと思うのでしょう? なんでしたっけ、ええと…そう、ブロー令息でしたわね。ブロー令息も、何故か同情的に女を慰めるような姿勢です。めんどくさいですわ。



「わたくしとその女は一切関係がありません。あなた方はただただ皆さまの大切な日を台無しにした、不届き者ではありませんこと?」



そうだそうだ――



「さっさとご退場くださいまし」



わあぁ――



話が通じないと判断したわたくしは、もう話す気も聞く気もありません。邪魔なモノをさっさと排除することにいたしました。


国王の指示で衛兵が二人を捕らえると、さっさとホールの外に連れていきます。何やら文句を言っていましたが、わたくしにはもう聞こえません。



「サナーリア」


「シュワルツ様。何だったんでしょうね?」


「面白いご親族だね。」


「…ご迷惑をお掛けして申し訳ございません。」


「いやなに、気にしていないよ。」


「シュワルツ様」


「ねえ、また来るかな?」


「……シュワルツ様」



後日聞いたところによりますと、ザバラン子爵家は後妻であるジルの実家の財産すらも食いつぶしお金に困っていたとのこと。兄であるデイドストーザ伯爵からも援助を断られ、資金繰りにと目をつけたのがブロー伯爵家。鉱山を有する裕福な伯爵家でした。そこと縁を結ぶことでまた贅沢な暮らしができると思ったのでしょう。

嫁ぐことが出来る娘は当然トリステルなわけですが、ブロー伯爵家は代々ブロンドに碧眼という容姿を大切に受け継いできた家であったため、青みがかった黒髪で黒目のトリステルを嫁がせるわけにはいかなかった。そこで、すでに縁は切れていましたが金髪碧眼であるわたくしサナーリアを長女と偽って婚約を交わしたとのこと。

婚約式では体調不良、令息が婚約後のご機嫌伺いに来る度にも「姉は体調が悪くて…」などと言ってトリステルが相手をしていたそう。それで二人の仲は深まったとか。


金髪碧眼どうするの? という疑問は残りますけれど、愛の前では伝統などどうでもよかったのでしょう。



わたくしはその日、卒院式でシュワルツ様とペアダンスを披露し拍手喝采、いい思い出として終えることができました。




そして―



結婚式まであと一月となった頃のこと。


くだんのザバラン子爵家は、ついに立ち行かなくなり爵位返上。平民になった一家。元商家の娘であるジルが働きに出てはいるらしいが、仕事に就かない(就けない)旦那との喧嘩が耐えないとか。

娘は娘で、一晩だけと身を買われ、自分はお金になる!これで好きなものが買える!と味をしめて娼館に身を置くことになったとか。


ついでにブロー伯爵家は、無理な領地運営がたたって領民に暴動を起こされそれが発端で領地没収になったとか。一家は行方知れずとのことです。




ま、そんなことはわたくしには関係ないのですけれど。だって、



「ドレスは本当に二着でいいの? 君の美しさを最大限皆にわかってもらうためには20着は必要じゃない?」


「いくら主役といえど、そんなに何回も着替えるのは…それより、お祝いしてくださる皆さまと少しでもお話がしたいですわ」


「ふふっ、君らしいね」



わたしくしは幸せですから。









※後日シュワルツ談を番外編で執筆中です。



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