古道具屋
高岩 沙由
珊瑚のかんざし
出会いと別れは人間関係だけに当てはまるものではない。
この店内に並んでいる品にも出会いと別れがある。
いろいろな事情で仕方なしに愛用の品に別れを告げる。
その愛用の品は別の人に使われるために出会いを求める。
古道具屋は出会いと別れを見つめる店なのだ。
「このかんざし……」
夜になり、店を閉めようとした時に、ふらりと入ってきた着物姿の客がいる。
男性は白い髪が肩くらいまであり、細い目は心なしか赤いような気がする。
その男性は店の入口の近くの棚に置いてある1本の珊瑚のかんざしを手に取って何か考え込んでいる。
私は男性に近寄りながら、かんざしの大まかな由来を伝える。
「そちらのかんざしは、古い時代の物なのですが、詳しい時代まではわかりません。持ち込んだ人が話していたのは江戸時代、米問屋の若旦那が吉原の遊女に贈ったということだけです」
「やはり、そうか」
男性は喜びの表情を浮かべ大きく頷く。
「このかんざしは、私が奈良の世に生きていた時に所有していたのだが、いつの時代か行方不明になっていた。江戸の世で使うことになって、心当たりを探したのだが見つからずに焦っていたところだった」
男性はかんざしから顔を上げると、私を見てにこり、と微笑む。
と、その時。
かんざしについている珊瑚が光始める。
「若旦那の手に渡すためこれから江戸に戻ろうと思う」
「ご武運をお祈りいたします」
私は数度頷いた後に男性の顔を見ながら無事を願う言葉を口にする。
男性は表情を引き締め頷く。
「ありがとう」
そう言って男性は光の中に消えて行った。
私は男性を見送ると店を閉める。
「あの妖は無事に江戸に戻れたのだろうか?」
誰もいない店内で1人呟いた。
古道具屋 高岩 沙由 @umitonya
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