悲しい男との出会いと喜ばしい男との別れ
黒銘菓(クロメイカ/kuromeika)
第1話
ウチにやって来た男の評価を一言でするならば、最低の一言で片付けられる。
愛想はない、無愛想、取っ付きにくい、口数が少ない、というか無口、全然喋らない!
私はそいつが来たときに絶望した。『嗚呼またか』と。
乱暴で粗雑で暴れん坊。ウチのものを引っ掻き回して、荒らして、勝手に取って、礼儀知らずも甚だしい。
食事はテーブルでしないってマナー違反じゃない?
挙げ句に他人の日記を当人が居ないことをいいことに盗み読んでそのまま持ってくヤツだし!
目を離した隙に破裂音がした。花火、室内で花火!何考えているの?
これだけやって、心底ここにいたくない顔をしているこの男には心からさっさと出ていって欲しい。
そしてある日、と言っても数日後、その男は出ていった。
この屋敷に火をつけて、全部、全部全部全部全部全部!全部を燃やして出ていった。
嗚呼、嗚呼、嗚呼、
あなたに出会えて悲しかった!
あなたと別れられて、私は嬉しい!
さようなら、あなた。私を解放してくれて、ありがと……
妙な屋敷に閉じ込められた。
うっかり道に迷って入り込んだ、窓も扉も空かない三文ホラーの舞台みたいな洋館。
が、そんな三文だからこそ、俺みたいな招かれざる客は死ぬ。
油断するな。警戒をしろ。死神はお前を囲んで嗤っている。
取り敢えずこの場所の情報を調べるために部屋を一室ずつ物色した。
本棚の中身、メモの切れ端、何かのエンブレム、鍵、妙な銅像…………。
空腹を感じて懐にあった簡易食を口にする。
味わう気はない。余裕もない。テーブルマナーは生きてここを出てから反省だ。
本棚の中身やメモの切れ端に書かれていた内容はどれもこれも専門的で半分も解らなかった。
が、さっき見つけた日記の内容は読めた。
どうもこの洋館の主は生物と無機物を一体化する事を目的に研究をしていたらしい。
この家の一族は代々頭脳に恵まれてこそいたものの、同時に短命だったらしい。
そして、恵まれた頭脳を駆使して短命から逃れようと思った結果、修理・パーツ交換の出来る無機物…機械やその他構造物に自分の意識を接続。自身の肉体はコールドスリープさせて意識を接続した無機物の体で長きを生きるという疑似不死に辿り着いた…そうだ。
勉強はからっきしだが、この手の輩の画期的な発明はロクでもないというのは知っている。
実際、一族全員をコールドスリープさせ、無機物の体を手に入れる事に成功はしたものの、肉体の寿命はそれでも尽きる。
しかし、肉体の寿命が尽きた後も人間の意識入りの無機物は何故か生き続けていた。
もう失われた筈の意識を無機物に宿した肉体はそうして、最後に狂った。
己が戻るべき体は無い。それでも血肉の無い体は有る。
そんな状態に狂って暴れ出した。
次は我が身と怯える
で、そいつらを封印し続けるために一人だけ、一族一番の頭脳の持ち主が体を生命維持装置で強制的に動かすようにしつつ、この洋館と同化したらしい。
が、どうもこの洋館になってる奴も狂っているようだ。
どう書いたか知らないが、途中から日記の一人称が二つに分かれ、筆跡が分かれ、最後には完全に二人分の日記になっていた。
最後、日記はこう終わっていた。
「2〇0 ねん お おわりに
武器庫のカギと爆弾の作り方と一緒にそれがあった。
地下は狂ったロボ共の巣窟で、唯一の生身の人間の俺を襲ってきた。
散弾が殻の人形共に引導を渡す。
引き金を引いて、撃つ。引き金を引いて、撃つ。引き金を引いて、撃つ。引き金を引いて、撃つ。引き金を引いて、撃つ。引き金を引いて、撃つ……………………
最後に残ったのは俺と、地面に散らばった骨と鉄の欠片。
そして、地下室最奥にあった巨大な機械、それにコードで繋がった金属と透明なガラスで出来た棺桶、中に横たわる人間。
俺を閉じ込めた、そして、必死に守ろうとした最後の一人。
終わりを願った女。
爆弾の時限装置を入れて、地下室を出た。
地下から爆音がして、火が洋館中に回っていく。
扉は開け放たれていた。出られる。
さようならは誰にも言わない。
俺は今回、誰にも出会う事無く、誰にも別れを言う必要は無い。
だから、業火に包まれる洋館から聞こえる悲痛も喜びと感謝の言葉も聞こえなかった。
洋館が火に包まれて、崩れ去っていった。
悲しい男との出会いと喜ばしい男との別れ 黒銘菓(クロメイカ/kuromeika) @kuromeika
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