焼き鳥食べたい

古月

焼き鳥食べたい

 ――焼き鳥が食べたい。


 家を出ていくばくもしないうちに、頭の中はそれでいっぱいになった。とにかく焼き鳥が食べたい。モモでもムネでも砂肝でもハツでもレバーでもネギマでもなんでもいい。とにかく焼き鳥が食べたくて仕方がない。


 それもこれも、このカクヨムとかいうWeb小説投稿サイトのせいだ。


 通勤中の暇つぶしにWeb小説はもってこいだ。マンガもいいが、小説は作品の母数が違う。小説は自分の好みに合う作品が見つかりやすい気がするし、同時に思いもかけない良作を発見することがある。たまにコンテストやら企画やらで面白い取り組みもやっていて、そこで作者ごとの違いを楽しむのもまた一興だ。


 が、今回ばかりは困った。

 その企画で出されたお題が「焼き鳥」だったのだ。


 焼き鳥を焼く話、焼き鳥の味付けで争う話、焼き鳥が生き返る話、焼き鳥が自ら食卓に並ぼうとする話、焼き鳥が異世界転生する話、焼き鳥が空手をする話……ありとあらゆる発想の焼き鳥が登場する物語が新着一覧に並んだ。それこそ祭りの日の屋台かと言うほどに並んだ。それは別にいい。思いがけない問題は、あまりにも多くの焼き鳥の文字を見せつけられ、その描写を読まされ、焼き鳥が食べたくなって仕方がなくなってしまったことだ。


 焼き鳥が食べたい。焼き鳥が食べたい。焼き鳥が食べたい。焼き鳥が食べたい!


「先輩、このプレゼンの締めトリはどうしましょう?」

「そんなの焼き鳥に決まっているだろう!」


 焼き鳥に憑りつかれるあまり後輩には変な顔をされた。されたからなんだ、とにかく焼き鳥が食べたくて仕方がない。

 いっそ昼食に食べてしまおうかと思ったが、こんな時に限ってコンビニは売り切れ、ランチに焼き鳥を提供している店も見つかりはしない。


 焼き鳥、焼き鳥、焼き鳥!


 定時になるや職場を飛び出し、自宅最寄り駅の居酒屋で焼き鳥を購入した。全種類タレと塩のフルセットだ。誰にも話しかけられずに堪能するためテイクアウトだ。


 帰宅し、着替えるのもそこそこに持ち帰った焼き鳥を皿に並べる。一度冷めた焼き鳥をレンジで温め直すなんてしたくない。焼き上がりの熱でまだほんのり湯気立つそれにかぶりつく。


 んん~、うまい!


 余談だが飲み会で焼き鳥を串から外すやつがいるが、こちらは一本一本にかぶりつきたい性分だ。一本まるまる堪能してこその焼き鳥というものだ。

 塩にはレモンをちょい足し、残ったタレは白米に乗せて余すところなく堪能する。こういう味わい方も一人でこそ楽しめる。


 気が付けばあっという間に全部食べ尽くしてしまっていた。


「いやぁ、満腹満腹」


 腹が満たされたらまた小説が読みたくなった。シングルベッドに寝転がりスマホ片手にカクヨムを開く。お、また新しいお題が出たようだ。


 お題『ビールが登場する物語』。


(完)

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焼き鳥食べたい 古月 @Kogetsu

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