焼き鳥屋はヒーローになりたい!

黒銘菓(クロメイカ/kuromeika)

第1話

 ここは下町の焼き鳥屋、『レバーテイン』。

 備長炭で焼いたねぎまが名物の焼き鳥屋。

 店主はもう中年。気さくで焼き鳥が旨く、常連は多い。

 今日も今日とて常連達が焼き鳥の煙に誘われてレバーテインに集う。


 「宇宙飛行士はなぁ、無理だったぁ。私には体力がなかったぁ。ねぎま一つ。」「あいよ。」

 常連のターさんがレバー片手にぼやく。

 「わかるよー。

 僕もねー、ダーティーハリーみたいになりたくて頑張って、法律に止められたよー。僕にもねぎまを一つー。」「あいよ。」

 隣の席のチョーさんも話に乗ってきた。

 「ノーベル賞取るって息巻いて、今の今まで取った試しは無し。俺も似たようなもんさ。ねぎま一つとビールおかわり。」「あいよ。」

 眼光鋭いイケちゃんも話に乗ってきた。

 「「「夢って、儚いなぁ。」」」

 三者三様、己が理想と現実を比べて黄昏る。

 「ターさんネギ一。

 チョーさんネギ一。

 イケちゃんはビールとネギ一お待ちどう。」

 三者三様にねぎまを一口。

 黄昏ていた顔が晴れる。

 「「「うまい!」」」

 皆の顔を見て満足そうな店主。

 「大将はぁ、夢って無かったかぁい?」

 「夢?夢ですかね…………

 あたしはですね、お恥ずかしながらヒーローに成りたいと思っていました。

 皆が笑って過ごせる、そんな世界を作りたいと思ってましてね、そして」

 「ヒーロー?良いじゃねぇか!」

 ビールを空にしたイケちゃんが叫ぶ。

 「いいねーいいねー。普段は焼き鳥屋でいざって時にヒーローに変身する。大好きだよー。

 僕、協力するよー。」

 「ヒーローのスーツ…今ならパワードスーツがベースでもアリだなぁ。

 待っててぇ大将。私達で大将をヒーローにしてみせるからぁ。」

 酔っ払い3人が盛り上がる。

 それを見た大将はにっこり笑って焼き鳥を焼き始めた。

 酔っ払いの戯言…そう、酔っ払いの戯言と流すのは間違いだった。



 「はい、なんですかこれは?」

 「焼き鳥ヒーローのヤキトリオンスーツですー……」

 「ちなみに、備長炭の燃焼エネルギーを用いて高度200mまで、二時間の連続飛行が可能だ。」

 「私達でぇ、作ったんだぁ。」

 大の中年三人が真昼間、警官から職務質問を受けていた。

 その理由は彼らの持ち物。

 ブラウンベースの人物像にも見えるそれは中が空洞で人間が着用出来る様に見えた。

 もっと言えば小さな炉の様なものが付いていて、明らかに飛行機能を持っているであろう装置が付いていた。

 新手のドローンか何かと思って職務質問をした警官は英断と言える。なにせ……

 「非番の警察官が何をやっているんですか?銚子さん!」

 チョーさん、本名:銚子元義。現役の警察官である。

 「他のお二人もです!田中さんはこれを無人で飛ばしたら法に触れるかもと思わなかったんですか?」

 ターさん、本名:田中雄二。中小企業でありながらロケットの部品として宙へ羽ばたいた企業の社長である。

 「池井戸さん、実験室はご自宅にあった筈です。ご自分の家で、実験は、行って、下さい!」

 イケちゃん、本名:池井戸学。

 有名大学で教鞭を取っている本物の教授である。


 焼き鳥屋の大将の夢を一つ敵える為に集まったメンツとしてはあまりに強力、あまりに豪華。

 だからこそ、実現寸前までに至った。

 「ごめんなー。ねぎま一つ。」

 「あと少しだったのによ。ねぎま二つとビール。」

 「私達で大将のヒーローの夢、叶えたかったなぁ…ねぎま一つ。」

 レバーテインで萎れる三人。それに対して大将は笑った。

 「いやいや、それは違いますよ皆さん。」

 ねぎまを四本、ビールを一杯出しながら笑って言った。

 「あたしはですね、お恥ずかしながらヒーローに成りたいと思っていました。

 皆が笑って過ごせる、そんな世界を作りたいと思ってましてね、そして、叶っているんです。

 皆さんがこうしてここで集まって楽しく飲む場所を作れている。

 私は十分、ヒーローになれたと、おもっているんですよ。」

 大将は笑って言った。

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