第13話「が」

 何かが違う……

 部屋の明かりを点けようとした瞬間に女は違和感を覚えた。いつもと変わらない帰宅時間、いつもと同じ筈の自分の部屋、少し薄暗いというほかには部屋の状態は今朝早くに女が家を出た時のまま何一つとして変わらない様に思えた。

 だが、何かが違う……

 微かだが確かな違和感を覚えた女は明かりを点けずに目を凝らして部屋の隅々を見回したがやはり何も変わった様子はなかった。

 冷蔵庫の隣にある戸棚のガラス扉から覗くお気に入りの切子グラスも、大好きな猫が描かれた壁掛けカレンダーのすぐ傍に掛けられているして額縁まで拘って購入したサルバドール・ダリの燃えるキリンThe Burning Giraffe複製絵画レプリカも、テーブルの上に置いてあるサボテンの植木鉢の横に並ぶ精油を入れずに加湿器代わりに使用しているアロマディフューザーも、大きな家具や家電は勿論小さな装飾品に至るまでおかしなところは何もなかった。

 確認した限り目視では何一つとして変わった点がない様に見えるにも拘わらず決して拭えない違和感は異常と言うほどではないもののひどく不気味だった。その言い様のない気味の悪さに女は明かりを点けずにきびすを返し玄関から外へ出た。

 外に出た女は扉の上にある部屋番号の書かれた表札を見るとそこが自らの住んでいる部屋である事を再確認した。無論、女は部屋に入る前に自らの手で扉の鍵を開けてから部屋へと入っているためそこが他人の部屋である可能性は低く、わざわざ外に出て部屋番号を確かめる様な事ではなかった。だが、そんな確かめる様な事ではない事すらも確かめたくなるほどの違和感を女は覚えていた。

 拭えない違和感がまとわりつく部屋の前に立つ女は様子を窺う様に辺りを見回したがそこにはいつも通りの風景があるのみだった。

 周囲は何も変わらない。ただ、自らが部屋に違和感を覚える。

 理解の及ばない感覚に戸惑う女は居ても立ってもいられずに誰かに相談しようと肩掛け鞄ショルダーバッグの中から携帯電話スマートフォンを取り出した。

 女が手にした携帯電話スマートフォンの画面に表示されていたのは二年前の日付だった。

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【更新無期停止】違和感 貴音真 @ukas-uyK_noemuY

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