きっかけは、焼き鳥でした。

寺音

きっかけは、焼き鳥でした。

 もしもし、京子?

 え、そうなの。わざわざ電話ありがとー! そう、私もついに結婚よ!

 婚活歴も長かったからね、ようやく一息——って、本当はこれからが始まりなんだけどね。

 式は今のところ未定かな。うん、する時は案内送るから絶対に来てね!


 ところで、って、何突然改まって。

 ん、結婚の決め手? え、そんなの興味ある方だっけ? んー、そうだなぁ……。最初のきっかけは焼き鳥、かな。

 うんうん、なんだそれってなるよねぇ。

 そうだなぁ、少し長くなるんだけど。




 京子は知ってるか分からないけど。結婚相談所ってね、出会ってから数ヶ月で所謂お付き合いをするか、更に数ヶ月でこの人とするか決めていかないといけないの。まぁ、その後に婚約破棄になることもあるんだけど。


 その時私は、旦那と何回かお見合いして、そろそろお返事をって仲人さんにも急かされてた頃だった。

 うん。本腰入れて付き合うか決めていかないといけない時期に来てた。


 正直よく分かんなくてね。

 本当にこの人で良いのかどうか、一緒にいて違和感はない気がするけど、それだけで先に進んで良いのかどうか。

 すごく迷ってた。



 そんな時、二人で仕事帰りに居酒屋で飲んでたの。旦那はよく飲む人だし、私も飲みたかったから二人でコース料理頼んでたのね。


 で、調子よく飲んでる時に、旦那がふとコースのメニューを眺めながら、

「僕、焼き鳥大好きなんですよー」

 ってニコニコしながら言うの。私も好きだったから、私もですなんて言いながら話してたっけ。

 それからタレと塩がどっちが良いかの話になって、更に好きな部位の話になった所で、例の焼き鳥が登場したの。


 そしたら、旦那があっ、て声を出して、気まずそうな顔をして固まった。

「僕、実は……は苦手なんですよね。残すのもお店に悪いですし……食べられますか?」

 だってさ! 確かにそのお店の焼き鳥は、モモとつくねと鶏皮とねぎまのセットだったのよね。


 実は私もねぎま、そんなに好きじゃないんだ。寧ろ、嫌いな方に入るんだけど……気づいたら旦那にこう言ってたの。


「ねぎま好きだし、私が食べますよ」


 なんと、嘘までついてね。

 そしたら旦那、良いんですか、って目をキラキラさせて喜んでた。

 子どもみたいに無邪気な顔しちゃってねぇ。


 そう。ビックリよね! 私自分で言うのも何だけど、美味しい物を食べる事には結構貪欲だったから、まさか好物を人に譲るなんて!

 でも、嬉しそうに焼き鳥を食べる旦那を見てたら、私それですっかり満足しちゃった。

 で、思ったのよね。


『アレ? 私、この人のコト、かなり好きなんじゃない?』


 ってね。それこそ、喜ぶ顔が見たくて嫌いなものを引き受けちゃうくらいには。



 それがきっかけで、正式に付き合うことになって、トントン拍子で話が進んで――まぁ、こんな風に夫婦になっちゃった訳。




 えー、惚気じゃんって、その話を聞いてきたのは京子でしょ!?

 ん? 今も旦那の嫌いなものを引き受けられるのかって?


 『私もねぎま好きじゃないから、半分食べて』って言うかな。


 いやいや、違うよ! 愛が失くなった訳じゃなくて!




 好きも嫌いも分かち合う関係になったのよ。

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きっかけは、焼き鳥でした。 寺音 @j-s-0730

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