第12話 科学を超越した男

 その小柄な丸顔の下腹の出た男、売り込みに来たその男はちょっと舌足らずな早口で猛然と喋っていた。

 身体を左右に揺すり、両手を休みなしに動かしながら。

 男の横にはひょろっと背の高い痩せた顔色の悪い男が膝の上に手を揃え俯いている。

 その男は、一年半前くらいからしつこく僕のいる会社を訪ねてきていた。

 これまでにない画期的な新商品を開発していると言った。

 「人類の歴史に残る商品です。御社で取り扱っていただければ爆発的に売れます」そう言っていた。

 胡散臭いという言葉を人間の形にしたらこの男のようになるだろう。

 そしてこの男の後ろには痩せた顔色の悪い男が俯いて立っているのだ。

 あんまりしつこくやってくるので、僕の上司が「一回話を聞いてやれ」と僕に言った。「諦めさせろ」そう言った。

 なんで僕に言うかな?そう思ったが、上司と議論するのは時間の無駄というのは身に染みていたので承知した。

 そして男はやってきた。俯く男と一緒に。

 応接に通す。

 小男は左に、俯き男は右に座る。

 座るなり小男は喋り出す。

 「いあや、お話を聞いていただけてありがたい。いや、おたくはとってもラッキーですよ!他のところに取られちゃったら、残念無念鳩ポッポになっちゃいますからね!」

 小男は体を揺すってしゃべり続ける。隣の男は俯いたまま。

 「今日お話に上がったのは、ほかでもない、わが社の超画期的、人類史上に残る製品のご説明のためなのです!」

 小男はぴょんとソファの上で飛び跳ねた。

 僕は黙って小男を見ていた。とても口を挟める雰囲気ではなかった。

 「具体的にご説明しましょう!」小男は目を見開き、鼻を膨らませて続けた。

 「この製品はですねえ、ごみ処理のマシーンなのです!ごみ処理?ありきたりとお思いですね?いやいや思われて当然です。でも、でもですね、この先をお聞きください。驚愕の事実をお話しします」

 小男の目は妙にきらきらと光っている。

 「このマシーンはですね、ある大学とある企業と我社が共同で研究開発したものなのです。超極秘、国家機密レベルのことなので、その大学と企業の名前は出せません。けれどびっくり仰天する大学と企業です。そこと我社が共同で研究開発したのであります!」小男はまたぴょんとソファの上で跳ねた。

 「何が超極秘、超画期的なのか!」小男は顎を引き息をつめて僕を見つめた。そして言った。

 「なんと!このマシーンの中にごみを投入します。そして30分!どうなるとお思いですか?」

 僕は黙って首を傾げた。

 小男は満足そうに顔中をくしゃくしゃにして笑い、そして言った。

 「ごみは跡形もなく消え去ります。そして、滓も液体も気体も何も残りません。すべてが消滅するのです!」

 小男は胸を張って、どうだと言わんばかりに僕を直視してきた。

 僕は茫然としつつ、しかし言った。

 「滓も液体も気体も残らないって、それ質量保存の法則からしてあり得ないですよね?」

 「そのとーり!」小男は叫んだ。僕はびっくりした。

 「質量・・・の法則では説明できないのです!」質量と言った後小男は口の中でむにゃむにゃっとなった。が、勢いよく続けた。

 「だからこそ、長機密、超画期的なのです!世界各国の情報機関が血眼になっています。我社も衛星から監視されています。私たちも警戒を強めてます!そのマシーンを御社にご提供したいのです!こんな空前絶後のチャンスはありません!」

 小男は目を見開き目をきらきらさせて、口をパクパクさせた。

 僕は小男を見つめた。小男は今は身じろぎもせず僕を見つめている。

 その顔を見ているうちに僕は妙な感覚にとらわれていた。この小男は人間なのだろうか?身じろぎもしなくなってこちらを見つめているその姿は人形のようにも見える。目の光はガラスの光にも見える。口も腹話術の人形のようにパクパク動いていた。

 腹話術の人形。次第に小男が人形に見えてくる。

 とすると操っているのは隣の俯いた男なのか?

 俯いた男に目を向けると、その口元に幽かに笑いが浮かんでいるようにも見える。

 人形は、いや小男はじっと僕を見つめている。冷たくきらきらした目で。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

こんなふうに働いてきました Aba・June @pupaju

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ