米葬
空本 青大
米葬
「お疲れ様、
「ありがとうございます。おと・・茂さん」
俺の名前は
大学では民俗学を専攻しており、卒論を書くに至り、
とある村を訪れた。
『稲穂村』
人口が400人ほどのとても小さな村。
ここにくるのに東京から電車を4回乗り継ぎ、3時間。
さらに最寄り駅の無人駅から車で1時間ちょっとかかった。
正直ここまでかかるとは・・。
体が悲鳴を上げているが、
山々に囲まれたこの美しい風景に疲れは吹き飛んだ。
なにより目を引いたのは、田園。
ちょうど田植えが終わり一面緑の稲が眼前に広がる。
眺めているととある田んぼに目が行く。
田園の中心に何も植えられていない一画の田んぼ。
あれはなんだろうと茂さんに聞こうとしたそのとき、
「豊くん!こっちこっち!早く行こうよ!」
自分の名前を呼ぶ女性の声がするほうを向く。
そこには一緒に東京から来た僕の彼女・
笑顔で手を振っていた。
彼女は僕と同じ大学に通う同い年の大学生。
授業でよく一緒になり、クラスの飲み会で話すようになり仲良くなってから、彼女の告白を受けて付き合うようになった。
この村は彼女の生まれ育った場所であり、卒論の相談をしたとき村へ招待してくれる流れとなったのだ。
「うん、今行くよ」
謎の田んぼはあとで聞くとして僕は、彼女と彼女の父親である
「改めて今日は本当にありがとうございます。」
「いいよいいよ。実の彼氏のためだからね」
歩きながら後ろを振り向き、優しい笑みで茂さんが答える。
「楽しみだな~今日のお祭り」
「そろそろどういうお祭りか教えてよ実ちゃん。村の外では教えられない決まりがあるとか言ってたけど、もう中にいるしいいだろ?」
僕の問いにフフフと含みのある笑顔を見せる実ちゃん。
「始まればわかるよ。楽しみにしててね♪」
今回僕がこの村を訪れた最大の理由はこれだ。
卒論では地方の珍しい風習や祭りの情報が必要だったため、資料だけでは伝わらない生の祭りを体験しに来たのだ。
こうして歩くこと15分。
ようやく目的地へと着く。
そこには大きな家、というよりもはやお屋敷といった建築物があった。
ポカンと眺める僕を尻目に屋敷に入る2人の背中を追う。
「すごいお家ですね」
「そうかい?まあだいぶ古い広いだけの家だよ、あっはっは」
玄関に入ると実ちゃんの母親が出迎えてくれて、僕は恐縮しながら挨拶を済ませる。
挨拶もそこそこに僕達3人は実ちゃんのお母さんにお座敷のほうに案内をされた。
お座敷は20人以上は入るんじゃないかというぐらい広く、僕は下座の席に座る。
座布団の数は15くらいあっただろうか。
待っていると一人二人と村の人?が入ってきて座布団に座っていく。
20分後、上座のほうに老人がゆっくりと歩みを進め掛け軸を背に座り込む。
すると実ちゃんのお父さんが老人の横に立ち下座の人たちに向かい話し始めた。
「皆様!お集まりいただきありがとうございます!それでは早速ではありますが、【米葬】を始めさせていただきたいと思います」
するとその場に集まった人たちの拍手が鳴り響く。
「実ちゃん米葬って?というかお父さんの隣にいる人は?」
僕は隣にいた実ちゃんにそっと耳打ちする。
「あの人は私のおじいちゃんなの。今日が誕生日で88歳、いわゆる米寿ってやつね」
「へーそうなんだ。もしかして今日のお祭りって米寿の祝いのことなの?」
そうだとしたら実ちゃんには悪いがとんだ肩透かしだ。
そんなことを思っていたら実ちゃんから思わぬ一言が返ってきた。
「まあ祝いは間違ってないけど、どちらかというとお葬式っぽいかな」
聞き間違えなのか葬式という不穏なワードが返ってきたことに僕はひどく動揺する。
「おじいちゃん生きてるよね?さっき歩いてたし」
「も~ヤダ豊くんったら!超元気だよ!」
会話が嚙み合ってない気がする・・。
頭の中がパニック状態になってきたその時―
上座にいたおじいちゃんが村の若い男たち数人に担ぎ上げあれていた。
そのまま家を出て田んぼのほうへと向かう。
呆気に取られているとその場にいた全員が後をついていった。
僕はわけもわからず追いかける。
皆に少し遅れてついていくと到着した場所は、僕が村に着いた時気になっていた稲が植えられていない田んぼだった。
田んぼの真ん中には人が一人入れるぐらいの穴が見える。
おじいちゃんを担いでいる男たちはその穴へとそっとおろす。
「それじゃあ皆の衆!いい米を作れよぉ~~」
おじいちゃんのその言葉をきっかけにそこにいた皆が穴に土を投げ入れる。
あっという間に土で覆いかぶせられおじいちゃんは生き埋めとなった。
その光景を見た僕は頭の中が真っ白となり立ち尽くした。
その後は実ちゃんに手を引かれ屋敷に戻り、再び座敷に座り込む。
そして目の前にホカホカのご飯が振舞われ、みんな嬉しそうにほおばっていく。
「この村ではね、米寿を迎えた人を田んぼに埋めることで豊作を続けてきた村なのよ」
うわの空で聞いていた僕は、あまりに美味しそうなご飯に手を付ける。
その味は天にも昇るような極上の味だった―—
米葬 空本 青大 @Soramoto_Aohiro
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