短編67話  数あるネーミング給食の覇者は!

帝王Tsuyamasama

短編67話  数あるネーミング給食の覇者は!

「おはよ、ゆっき!」

「おはよ、ふあー……」

 今日も僕、網原あみはら 雪民ゆきたみを出迎えてくれたのは、暮坂くれさか 透美とうみ

 紺色セーラー服に青色のリボン。髪はすごく長いわけではないけど、今日もひとつにくくってる、お馴染みの。

 身長は僕とほとんど同じ。まぁ僕は男子の中では大きくない方だから……。

 透美は元気な女子。部活は柔道部。透美の父さんが柔道の人で、道場もある。透美自身は、そこまで柔道好き~っていうわけでもないらしいけど、でも柔道がある生活に慣れちゃったとかなんとか。

 ちなみに僕はただの学生服。部活は剣道部だよ。

 お互いが今日は朝練朝の練習がない日。こういう日は、ほぼ毎日僕は透美と一緒に登校している。

 小学生どころか幼稚園からお互い知っているけど、仲良くなったのは小学校の高学年辺りからかな? ゆっきって、僕のことを幼稚園のときから呼んでいる。


「ねねゆっき。今日はネーミング給食書く日だね!」

「うん、そうだね。透美は決まってるの?」

「えへん! 紅白ドリア! どう!?」

「ケチャップでもかけるの?」

「上からかけるとかじゃなくて、下のご飯をピラフとチキンライスにするの!」

「へー。ドリアのご飯って、ピラフもあるの?」

「お母さん言ってたよ?」

 ネーミング給食というのは、全校生徒参加型の給食の献立考えようって感じのイベント。

 主食・主菜・副菜・果物の項目のうちのひとつを選んで、名前と調理方法(果物だったら、単純に選んだ理由とかかな)を書いて提出。学活の時間に行われる。

 で、給食のおばちゃんたちが集まった案の中から選んで、後日そのメニューが給食として登場する。

 透美のお母さんは調理師さん。強すぎ。僕のところは、料理一家でもなんでもないや。

「ゆっきは?」

「僕はわかめごはんが食べたいなぁ」

「それはもともとあるやつだから、リクエスト給食用じゃんー」

「だよねー、ははっ。もうちょっと考えるよ」

 わかめごはんっていうのは、刻んだわかめ・卵のそぼろ・他なにかその時々のそぼろがごはんに乗ってるやつ。わかめの塩加減が絶妙。実はうちの学校では、カレーライスよりも人気。

 ちなみにリクエスト給食というのは、食べたいメニューを書いて出して、やっぱりこれも後日選ばれたのがメニューになるというもの。ネーミング給食と違うところは、主食から果物まで全部書くことと、料理方法は特に書く必要がないこと。普段給食で出るメニューから選ぶ感じ。

 他にもセレクト給食というのまである。これはそれぞれ二択のうち、どちらか好きな方を自分で選択できる、というもの。


 学校に着いてからも、やっぱりクラスメイトたちとはネーミング給食の話になった。

 いざメニュー名を書く場面。僕はきゅうり・大根・にんじんトライアングル、って書いた。家で出てくるのを書いただけだけど……。調理方法は、ごま油で混ぜるって書いた。


 そしてやってきた、ネーミング給食いただきますの日。


(……これ、もしかして……)

「今日はネーミング給食の日です。いただきますをしてから、メニューを選ばれた人たちを紹介していきますね」

 理科の若宮先生だ。いただきますは給食当番のうちの一人がマイクを使って言うけど、その前後に先生がちょっとしゃべるのは、毎日ころころ替わっている。

「手を合わせましょう」

 ぺったん。

「いーたーだーきーます」

 ランチルームに、全校生徒によるいただきますが響き渡った。

(ちらっ)

 僕はスプーンで、グラタン……に見えるけど、たぶんあれかなーっていうのを、崩してみると、

(やっぱり……!)

 僕は思わず透美を見た。ちょっと遠いから、僕が見たことには気づいていないみたい。

「それではみなさん、食べながら聞いてください。メニューを考えてくれた人たちは……」

 どぅるるる~。ちゃん。僕の頭の中でどぅるるるだけど。

「主食『紅白チキピラドリア』。三年二組、暮坂透美さん」

 ランチルーム内がぱちぱちぱち~と拍手まみれ。透美を見てみたら、左手を頭の後ろに当ててぺこぺこ。想像どおりのリアクションだった。


 他のメニューはこんな感じ。

 主菜『43%豆腐ハンバーグ』。三年一組、さかえ 香理奈かりな。この比率は何度も研究を重ねて行き着いたらしい。豆腐が43%。

 副菜『海草としめじの海山サラダ(大根付き)』。二年四組、野雲のぐも 厘子りんこ。ドレッシングのレシピも書かれてあったみたい。酢・オリーブオイル・醤油・そして三温糖っていうところがポイントらしい。確かにパキッってするやつがない。

 果物『ドラゴンフルーツ』。三年二組、立森たてもり 義人たくと。一年一組、林川はやしがわ かい。二人書いたってことらしい。この赤いの、そんなかっこいい名前なんだ……。

 僕たちの三年二組は、今年たくさん選ばれた。


 僕のメニューは外れたけど、おいしく給食をいただいて、ごちそうさまでしたがランチルームに響き渡った。


「ゆっき! お待たせ~」

「じゃあ帰ろう」

「うんっ」

 朝練は部活によって時間も曜日もばらばらだけど、放課後の部活は終わる時間が全部活一緒なので、帰りはほぼ毎日、透美と一緒に帰ってる。

 今日も透美は笑顔~……ってまぁ、ネーミング給食選ばれたからよけーにかも?

「今日は透美のが選ばれてたね」

「えっへん!」

 右肩から掛けられている、学校指定の紺色セカバンセカンドバッグはそのままに、両手を脇腹辺りに添えてえっへんポーズ。

「家でも料理、してるんだっけ。今でも?」

 小学生のときは、よくお手伝い話を聞いたなぁ。

「うん、今でも~。というか最近は私が全部担当する日もあるよー」

「うぉすごっ」

 僕は毎日お父さんとお母さんのを食べてるよ。お父さんが手伝うのは土日が中心。

「あ、そうだっ!」

 えっへんポーズが終わって、今度は右手ぐーで左手をぽんした。

「今度の雪民の試合、お弁当、あたしが作ってあげるよ!」

「えっ!?」

 お、お弁当を、透美が?!

「うん! どう? 食べたい?」

「た、食べたい!」

 透美のお弁当とか、すごくいい!

「よしっ! 雪民が試合で勝てるように、気合入れて作ってあげる!」

 ああ……透美って、ほんとすかーっとして爽やかで、しかも料理が得意とか、いいよなぁ。おまけに柔道だし。

(今日も笑顔だし)

「そ、それで負けちゃったらやばいねっ」

「その時はその時! 相手だって、手作り弁当で気合入ったかもしれないしね」

 もはや剣道の大会っていうよりか、食べさせた手作り弁当勝負?

「ま、あたしが応援してあげるんだから、どーんと勝っちゃってよ!」

「が、頑張るよ」

 両手をぐーにして、うんうんとにこにこしてる透美。

「冷蔵庫の中身からしてー。明日、たぶんおつかいがあると思うんだー。雪民もついてきてくれるよね?」

「うん、もちろん」

 荷物持ちくらい、いくらでも手伝うよ。

「やた! もぉーあたし雪民が一緒じゃないといつもの調子出ないよー」

「そ、そんなに?」

 ま、まぁ僕だって、透美と一緒の方がもちろん楽しいわけで。

「これからも仲良くして……ねっ!」

「うあわっ」

 ジャンピングアタックをされて、僕はちょっとよろけちゃった。触れた僕の右腕も、透美と一緒に楽しんでいるようだった。

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短編67話  数あるネーミング給食の覇者は! 帝王Tsuyamasama @TeiohAoyamacho

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