【感謝企画】

特別短編『美少女たちの食事会』

「おっつー、マキマキ!!」


「あ、こんにちは。ミホンさん!」


 食事会にやって来た美穂は先に座っていたマキマキに挨拶をする。



「あ、幼馴染さんも。おっつ~!」


 そしてその隣に座っていた玲子に気付き同様に挨拶をする。


「私はそんな名前じゃないわ。玲子って言うの。覚えておいて」


「あー、そうだったね。おっつ~、玲子ちゃん」


「おはようございます」



 マキマキが美穂に言う。


「え、ミホンさんこの人とお知り合いだったんですか?」


「ん? まあ、知り合いって言うほどじゃないけど。あ、そうか。ふたりは絡みなかったんだね。えーっと、彼女はね、拓也の幼馴染みなんだよ」


「へえー、そうだったんですか。団長の。話し掛けても何も言わないんで困っていたんですよ」


「知らない人とは話さないの。危険でしょ? それよりあなた、今、拓也のこと『拓也』って呼んだわね」


「え?」


 驚く美穂にマキマキが言う。


「あー、本当だ! ミホンさん団長のこといつも『木下君』って呼んでいたでしょ? どうして急に下の名前で呼んでいるんですか??」


 美穂が不気味な笑みを浮かべて答える。


「ふふふっ、なーんだ、君達。ちゃんと本編を読んでいないのね。私達、もう『お付き合い』しているんだよ!!」


「ええっ!!!」


 驚くマキマキ。対照的に冷静な玲子が言う。



「そんなこと認めないわ。それに本編は終わったの。ここではすべてが虚構。つまり誰にだって可能性はあるのよ」


「ちょ、ちょっと玲子さん、何言ってるんだか意味が……」


 隣に座る玲子に驚くマキマキ。美穂が余裕の顔で答える。



「ふふっ、まあいいわ。どう足掻いたって私がヒロイン。絶対にそれは揺るがないの。だってこの名札に……、ん?」


 美穂は事前に送られてきていた自分の名札を見て驚きの声を上げる。



「ええっ!? 私、名前の横の肩書に『天然お馬鹿キャラ』って書いてある……」


 それを聞いたマキマキが笑って言う。


「ぷっ、ぴったりじゃないですか!!」


「な、何を言うの!! じゃあみんなはなんて書いてあるの??」


 玲子が封筒に入った自分の名札を取り出しながら言う。



「本当のヒロインはこの私。あなた方じゃないわ。……え?」


 そう言って取り出した名札には『負けヒロイン』と書かれている。



「ぷぷぷっ、ま、負けヒロインだって……、これは真理。お腹が痛い……」


 笑いを堪えるマキマキに、美穂と玲子が言う。



「あなたはなんて書いてあるの?」


「え、ええ。今開けますね。何かな~、『噂の美少女転校生』とか!?」



「は?」


 名札を見たマキマキが固まる。


「なに? 見せなさいよ!! え? きゃはははっ!!!」


 マキマキの名札に書かれた『踏み台』という言葉を見て美穂が大笑いする。



「なに、『踏み台』って!? 人ですらないじゃん!!」


「うそ、これは余りに酷い……」




「もういいわ。それよりあなた。さっきから拓也のこと『ダンチョー』って呼んでいるけど、一体なんなの?」


「え? あ、そうか。玲子さん、『ワンセカ』やってないんですね」


「『ワンセカ』? ふざけないで。私は拓也のことなら何でも知っているのよ」


 マキマキに言われた玲子がむっとした表情で答える。マキマキが言う。



「へえー、じゃあ、私達がいる団の名前も当然知っているんですよね?」


「ちょっとお、マキマキ。あんまり……」


 心配した美穂が声を出すが、同時に玲子が答える。



「『カビカビ団』!! どう?」


「ぷっ!! 惜しい!!」


 思わず美穂が笑いを堪えて言う。マキマキが呆れた顔で答えた。



「何が惜しいですか。全然違いますよ。『ピカピカ団』、しか合ってないじゃないですか」


「『カ』も合ってるわ。ふたつも」


「はあ……」


 苦笑いする美穂が玲子に説明する。



「玲子ちゃん、『ワンセカ』ってのはね、スマホのソシャゲーなの」


「スマホのそしゃげ?」


 少し混乱しつつもどこかで聞いた事があると玲子が思う。マキマキが言う。



「あー、つまり、スマホでやるゲームってこと。分かります?」


「わ、分かるわ、そのくらい。私だって昔からゲームぐらいたしなんでいるから」


「へえー、どんなゲームですか?」


 玲子が腕を組んで答える。



「オセロとかトランプとか、全般」


「な、何が全般なんですか!! ジャンルが全然違うじゃないですか!!」



「特にお手玉の『猿股さるまた返し』は猿の股が返ったように見える高難易度の技で、私しかできないの」


「それは凄い!! オテダマーなんだ!!」


 美穂が手を叩いて言う。


「まあ、私が考えた技だから私しかできないんだけど」



「おいおい……」


 静かに突っ込むマキマキ。そして息を吐いてからふたりに言う。



「ねえ、せっかく美女三名が集まったんだから、女子トークやりましょうよ」


「女子トーク? いいわね、しよしよ!!」


 美穂は既に乗り気である。玲子が尋ねる。



「女子トーク? 何を話せばいいのかしら?」


 マキマキが答える。


「えー、何でもいいですよ! でも恋バナとかがいいかな」


「濃いバナ?」


「いいよね、やっぱ恋バナでしょ!!」


 美穂も乗り気である。



(『濃いバナナ』の話かしら? うちはいつもお母さんが買って来るひと房98円の安物バナナなので、そんな濃厚な味はしない。でも……)


「分かったわ。私もバナナは好きなの」



「は?」


 見つめ合って固まる美穂とマキマキ。突然の『バナナ好き宣言』に唖然とする。美穂が言う。



「そ、そうね。私もバナナ、大好きよ……」


「ええ、マキマキもバナナ好き……」


 なぜかバナナトークになった三名。その方向修正に美穂がマキマキに尋ねる。



「えっと、マキマキはさあ、確か何名かの男の子と付き合ったんだよね?」


 自分に振られつつも、話が戻ったことに安堵するマキマキが答える。


「ええ、そうですよ」



(男の話? バナナの話はもう良かったのかしら?)


 ちょっと納得のいかない玲子だったが、マキマキの話が始まると黙って聞いた。美穂が尋ねる。



「どんな男の子と付き合ってたの?」


「えー、そうですね~。学年一のイケメンとか、サッカー部のエースとか、大学教授の息子とか……」


「は?」


 予想以上の回答に驚くふたり。



「あとは変態も多かったですね。ナルシストとかストーカーとか、ネチネチこだわり派なんてのも」


「言っている意味が分からないわ」


 玲子が眉間に皺を寄せて言う。



「うーん、私ちょっと変わった人が好みみたいで、団長もその系統なの」


「ちょ、ちょっとお、の拓也をそんな風に言わないでよお!!」


 美穂がそれを聞きむっとして言う。玲子が反応する。



「『私の』? その方が意味が分からないわ。それよりあなたはどうなの?」


 玲子に振られた美穂。マキマキも興味津々で言う。



「そうですね! なにせミホンさんは読モもやるような美少女。男性経験豊富なんですよね!!」


 美穂が首を振って答える。



「ううん。私はゼロよ。拓也が初めてなの」


「ええっ!!!!」


 マキマキが驚きの声を上げる。


「確かに読モもやってるけど、なんか軽い人ばかりで、もともと読モなんて興味ないし、ただの都合のいいバイトだった訳で」


毒盛どくも? ま、まさかこの人、気に入らない男に毒を盛ったのかしら!?)


 話を聞いている玲子の顔が青ざめる。美穂が続ける。



「確かに言い寄られたことはあったけど全然興味なかったわ。しつこいのもいたけど」


 すまし顔の美穂に玲子が恐る恐る尋ねる。


「だ、だからってはあまりにもやり過ぎじゃないの?」



「へ?」


 またしても意味の分からない発言にびっくりする美穂とマキマキ。美穂が慌てて否定する。


「ちょ、ちょっと。意味分からないよ、玲子ちゃん!! 毒を盛ったって、そんなことしてないわ!!」


 玲子が言う。


「拓也には絶対毒は盛らせない!!」


 玲子の目が血走る。


「いや、だから毒なんて盛っていないし!! 拓也は殺さないし!!」


 ふたりの会話を聞いているマキマキが頭を抱えて首を振る。そして玲子に言う。



「ね、ねえ。恋バナしようよ。どうして毒殺の話なんてしてるんですか。それで、玲子さんはどうなんですか? 男の子との思い出とか?」


「思い出?」


「そう、気になった男の子とかいたんですか?」


 玲子が即答する。



「いたわ。拓也よ。ずっと一緒に居たし、ご飯もよく食べたし、プールに行ったり、部屋で一緒に寝たりしたわ」


「はああああ!? ちょ、ちょっとそれどういう事よ!!!」


 玲子が答える。


「何驚いているの? 子供の頃の話よ、幼馴染みだもん。そのくらい当然でしょ」


 急にマウントを取り出した玲子。険悪な雰囲気になってきたことに気付いたマキマキが話題を変える。




「そ、そうだわ。それよりどうして今日、急にこんな食事会なんて開いたのかな?」


 ふたりがマキマキの顔を見て言う。


「食事会? どこに料理なんてあるのよ?」


 マキマキが何も置かれていないテーブルを見つめて言う。



「うわ、本当だ! 料理なんて何もないじゃない!!」


 美穂が言う。


「そもそも誰がこんな呼び掛けしたの?」


 三人が顔を見合わせて言う。



「拓也……」


 マキマキが言う。


「そうよ、きっと団長が仕組んだんだわ。ちょっと呼んで来ましょう!!!」


「え? いるの、ここに?」


 マキマキはそう言うと立ち上がって部屋のドアを開け出て行く。そしてしばらくすると拓也を連れて戻って来た。



「げっ!? な、何これ? どういうこと?」


 テーブルに座る美穂、玲子、マキマキを見て拓也が驚く。マキマキが尋ねる。



「え? この企画って団長が考えたんじゃないんですか?」


 拓也が答える。



「し、知らないよ!! こんな恐ろしい企画……」


 玲子がひとり立ちあがる。



「そう、拓也の企画じゃないなら、私帰るわ」


「ちょ、ちょっとお……」


 美穂が困ったような顔をする。そして立ちすくむ拓也の腕を取り部屋を出ようとする。



「待ったあ!!!」


 すかさずマキマキがふたりの間に入る。玲子が言う。


「放して。拓也は私と帰るの!!」


 そこに美穂も割って入る。



「いい加減にしてよ!! 拓也は私の彼氏なのよ!!」


 意味が分からない拓也が三人に声を掛ける。



「ちょ、ちょっと落ち着いて、みんな……」


 玲子が言う。



「じゃあ、こうしましょう。拓也にここで選んでもらえばいいわ」


「お、おい、玲子!!」



「そうね、それが公平ですね。いいわ、受けて立ちます!!」


 マキマキも乗り気である。美穂も仕方なしに同意する。



「まあ、仕方ないわね。私の勝ちは見えてるけど、いいわ、それで」



「な、なあ、お前ら。一体何を考えて……」




「拓也は胸の大きな女の子が好きなんでしょ?」


「は?」



 誰よりも先に玲子が拓也の前に立って言う。突き出した大きな胸の膨らみが、今にも拓也に触れそうである。


(ぐほっ!!)


 拓也が驚き後ずさりする。



「む、胸の大きさなら私も負けないわ!!」


 そう言って今度は美穂が自慢の胸を拓也に突き出す。



(ぐはっ!!)


 拓也の頭に血が上る。それを見ていたマキマキが拓也に尋ねる。



「団長ぉ、団長は確か『胸は何でも好き』だったんですよね……」


 三人で唯一の貧乳であるマキマキが悲しそうに言う。皆の視線がまな板のマキの胸元に集まる。マキマキはさらに拓也に近づいて言う。



「団長はマキマキのこの小さな胸を『可愛らしいよ。小さいのを気にしてるなら俺が毎日揉んで大きくしてあげるよ』と言ってくれましたよね」


「は、はあぁ!? な、何だそれ!? お、俺そんな事一言も……」


 驚く拓也を横に玲子がすぐに言った。



「何言ってるのあなた? この奥手がそんなこと言えるわけないじゃないの。いい? 拓也は巨乳好きなの。いえ、正確に言えば私の胸だけが好きなの」


 そう言ってさらに胸を近づける玲子。マキマキが泣きそうになって言う。



「違うわ! 違いますよね、団長。団長は女の子の胸なら、マキマキの胸でも全て無条件で愛してくれますよね?」


「もう、な、何がどうなって……」


 全く意味の分からない会話に混乱し始める拓也。三人の美少女が拓也に近付いて言う。



「さあ、選んで下さい!!」



「拓也!!」

「団長っ!!!」

「拓也っ!!」



「ご、ごめーーん!!!」


 拓也が振り返って全力で逃げ始める。



「あ、逃げた!」

「追うわよ!!」

「逃がさない」


 訳も分からず詰め寄られ必死に逃げる拓也を、三人の美少女達が追いかけた。

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隣になった学年一の美少女はゲーム内では俺の部下だった。平穏に暮らしたいからバレない様にしているけど、会う度話し掛けられ困っています。 サイトウ純蒼 @junso32

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