八という字は合掌に似ている
葛瀬 秋奈
八+八
夏も近づく
「おばあちゃん、来たよ」
「おや、咲良かい。どうしてここに?」
咲良の姿を見た八千代は目を丸くしたが咲良は質問には答えずただ
「誕生日おめでとう。あのね、プレゼントがあるの」
咲良は抱えていたボロボロの紙袋から七色の毛糸で編まれたマフラーを取り出した。それは編み物初心者の咲良が編んだ8本目のマフラーであった。
「本当は米寿だしからし金とかが良かったのかもしれないけど……前にお地蔵様にあげたやつの余り糸で編んだんだ。だからちょっと短いかも」
「いいんだよ。虹みたいできれいだね」
「これから暑くなるのにマフラーも
「いいんだよ、いいんだよ」
「衣料品はほとんどなくなっちゃったけどゴミと間違えられたのかこれだけはとられなくて済んだから……その、ごめんなさい」
「いいんだよ。咲良が無事でいてくれたことが一番の贈り物なんだから」
八千代は涙目になった咲良の頭を優しく
「ねぇ、どうして避難しなかったんだい」
「寝たきりのおばあちゃんを
「それは……悪かったねぇ」
「お地蔵様のお世話もしなきゃいけないし」
「私が頼んだからだよね、ごめんね」
「いいんだよ」
「でも……っ」
激しく
「本当はね、
「……いいんだよ」
「うん、よかった」
「あのね、咲良。誰にも言ってないけど、おばあちゃん実は人魚なんだ。だから万が一のときは私を食べて
「嫌だよ八百比丘尼なんか。8人兄弟の末っ子だったんじゃないの?」
「それにしてもこの時期になると新茶が飲みたくなるね」
「新茶じゃなくて悪いけど、安全な水を確保できたから飲んでね」
「こんなことになるならもっと早く
「それは言わない約束でしょ」
咲良は
「生まれ変わったら石になりたい」
「じゃあ私はその隣で桜になるね」
遠くで何かが
八という字は合掌に似ている 葛瀬 秋奈 @4696cat
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