西へ!

 俺はそこで立ち止まると、さっきミランダが脱ぎ捨てたホットパンツのポケットから1枚のコインを取り出した。


「このコイントスでどっちにするかいつも決めてたんだ。今回もそうするとしよう」


「あぁ? 何を決めようってんだ?」


 ピンっと俺はコインを弾いた。宙を舞うコインがクルクル高速で回転し、落下する視線が自然とそれを追っていく。


 ズキューーン!


 その時、銃声が響くと一瞬で抜いた俺のコルトが男の拳銃を吹き飛ばしていた。


「なっ⁉︎ そんな!」


「さっさと消えな。格の違いは今のでよくわかっただろう?」


 俺はまだ煙が漂う銃口を今度は男の眉間に向ける。


「くっ! 畜生め!」


 男は悔しそうにあたふたと逃げ出そうとした。


「あっ、ちょい待て。その女への迷惑料だ。馬は置いていけ。あと拳銃もな」

 

 俺は馬に乗ろうとする男を止めた。貴重な足だ、貰っておこう。


「くっそー! 覚えてやがれ!」


「20秒数える間に視界から消えな。さもないと撃つぞ」


 カチリッと撃鉄を起こし照準を定めると、男は血相を変えて走り去っていった。あっという間に男の姿は見えなくなった。


「助かったわ! 有難う!」


 危険が去るとミランダが飛びついてきた。


「だーっ! 先に服を着ろ! とっととズラかるぞ! 後で仲間の賞金稼ぎとか連れてこられると面倒だ」


 俺は赤面して慌ててそれを引き剥がす。手が柔らかいものにあたった気がしたが知らん、不可抗力だ。ミランダも早めにズラかったほうがいいと察したのか慌てて服を身につけ出した。そのとき彼女が地面に落ちていたキラッと光るあるモノに気がついた。


「ねぇ、これって?」


 着替え中の彼女に背を向けていた俺が振り向くと、その手の平には綺麗に真ん中を撃ち抜かれたコインが置かれていた。


「凄いわね。狙ったの?」


「さぁな? 偶然じゃないのか?」


 とぼける俺をしばらくじっと見つめ、やがてミランダはふぅっと一つ溜め息つくと、


「これじゃあもう表か裏かわからないわね」


 そう言って指に挟んだコインを目の前にかざし、その穴から俺を覗き込んだ。


「もう必要ないさ」


 俺は笑って答えた。


「西へ行くんだろう? Go WEST! さぁ行こうぜ」



 これはきっとある日見た夢だろう。


 まったく、おかしなおかしな夢だった。



 ー完ー

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Go WEST! TiLA @TiLA_k

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