第5話 娯楽への一歩

 病院の屋上、空はオレンジ色に輝いてる。俺が立っている後ろの床は赤く染まり、数人の死体が転がっていた。まぁ、俺が殺したんだから当然だけど。

 弾は途中で切れたから、病院にある、あらゆる物を使って殺した。


 多分、まだ人は残っていると思うけど、探すのもめんどくさい。それに、後始末。今後、俺は追いかけられる人生を送るだろう。逃げるのも嫌だなぁ、普通に 怖い。


 何度でも殺せて、周りを気にしなくてもいい。そんな夢の空間はないだろうか。


「…………あ」


 あった。永遠に殺せて、周りを気にしなくてもいい空間。相手は何度も何度も生き返るから、それはすなわち何度でも殺せるという事だよな。


 あれは夢だったのだろうか。いや、夢でもいい。あの空間なら、俺も娯楽を十分に楽しめる。


「居たぞ、あいつだ!!」


 背後から声、残党がやっぱりいたか。まぁ、ここで殺してもいいけど、俺ももう武器がない。さすがにただの平凡な男子高校生が、何の武器もなく大人に向かって勝てるなんて無理がある。


「今度は、毒殺とかしてみたいなぁ。それとも、脳みそを抉り出してみようか」


 俺の言葉に、後ろの人達がどよめき出した。安心しなよ、君達にはやらないからさ。


 ここは何階建てだったっけ。確か、十階以上はあったはず。あまり覚えてないけど。


 ガシャン


 屋上の柵を乗り越え、屋上の縁に立つ。風が俺の肌を撫でるように吹き、心地よい。


「ま、待て!!!!」


 気持ちがいい。周りの声がどんどん遠くなる感覚だ。太陽が沈み、周りは闇へと移り変わる。


 輝きだした月が、俺を見下ろし照らしてくれる。あぁ、こんなに心地が良い。


「今から会いに行くよ。その時、沢山殺し会おう。お互いの、娯楽のために──……」


 風が吹くタイミングで、俺は体を前に傾かせる。後ろからの声は遮断され、体には浮遊感が伝わる。


 まるで、空を飛んでいるような感覚だ。気持ちがいい。


 どんどん地面が近づいてくる。なのに、どうしてこんなにも怖くないんだろうか。全く怖くない。むしろ、早く着地したい。



 あぁ、ダメだ。早く、早く。あそこに行かせてくれ。



 娯楽を楽しむ事の出来る、あの空間へ──……




         グシャッ



 


 足音が聞こえる。前から。永遠に続く廊下の先。闇が広がる、夢の空間から。


「…………会いたかったよ、僕。やっと、永遠の時を楽しめるね」

「…………あぁ、待たせて悪かった」


 ここからは、何も気にせず殺し合える。


 さぁ、始めようか。俺達の、娯楽を。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

娯楽への一歩 桜桃 @sakurannbo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ