トリと一緒にお宝探し

にゃべ♪

75年前の冒険

 私は相良水穂。どこにでもいる普通の中学2年生。ある日、帰宅したら丸っこいぬいぐるみの鳥のようなトリって言う謎の生き物が現れた。トリは「一緒に宝探しをするホ」とか言って、無理やり私を自分の目的に突き合わせる。

 おかげで平和だった私の日常はどっか行っちゃった。これからどうなっちゃうの?


 学校からの帰宅後、やっと宿題を片付けたところでトリが勢いよく私の部屋のドアを開けた。


「水穂、散歩につれてって欲しいホ」

「は? ダメ」

「散歩に行きたいテンションになってきたんだホ」

「いや空飛ぶぬいぐるみと散歩して、近所の人に見られたらどう説明すんのよ。無理に決まってんでしょ」


 私が要求を却下したところ、彼はしばらく空中でホバリング。それから捨てぜりふを残して部屋を出ていった。


「じゃあ勝手に出ていくホー!」

「ちょ、待てーい!」


 玄関を飛び出していったトリを追いかけて私も外に。あの小さな羽でよくドアを開けたな。トリの飛行スピードは意外と遅い。なのですぐに追いつく事が出来た。


「何で勝手に出ていくの。帰るよ」

「やったホ。今から散歩をするホ」

「しーっ! 近所の人に見つかったら」

「大丈夫ホ」


 トリはそう断言すると、飛びながら私を引っ張る。その力は思いの外強く、引っ張られる形で散歩をする羽目になってしまった。


「ちょ、どこ行くの」

「ほら、誰もいないホ」

「え?」


 確かに、いつもなら誰かしら行き交っているはずの道路に何故か今は誰もいない。その違和感に少し恐怖を覚えていると、前方から歩いてくる人影が見えてくる。私はトリを隠そうと、羽を掴んで引っ張った。


「痛いホ、やめるホ!」

「ちょ、喋んなって」

「おや?」


 私達の前に現れたのは上品そうなおばあちゃんだった。高齢ではあったものの腰も曲がっておらず、かくしゃくとしている。ただし、見覚えがないので近所の人ではないようだ。

 トリが喋るところをバッチリ見られてしまったので、私は思いっきり焦る。


「いやあのそのこれは……」

「トリちゃんかい? 元気そうで良かった」

「アスカも元気そうで良かったホ」


 どうやらトリとおばあさん――アスカさん? は知り合いらしい。2人が仲良く話しているこの状況に、私は急に疎外感を感じた。

 2人の関係について色々聞きたかったものの、うまく言葉を思いつけない。


「えっと……」

「紹介するホ。彼女はアスカ。それでこの子が水穂ホ」

「ああ、その子が」


 アスカさんは優しい笑顔を浮かべて私を見る。この時、何故か彼女が先輩に思えてしまい、私の胸に不思議な感情が湧き上がった。何だろうこれ。うまく説明出来ない。何か返事を返すべきなのだろうけど、適切な言葉が出てこない。

 そのまま私が立ち尽くしていると、トリのくちばしが動いた。


「あれは75年くらい前の話だったかホ?」

「もうそんなにもなるんですねえ」

「アスカもまた特異点だったんだホ」

「え?」


 どうやら私が先輩だと感じたのは正解だったらしい。75年前って、ちょうど戦争が終わったくらいの時期だろうか? 私がその風景を想像すると、周りの景色がその時代を再現する。

 終戦直後の動乱期の景色。私は古い動画で何度かくらいしか見た事がない。このトンデモ状況に私は顔を左右に振る。


「あれ? どゆ事?」

「戻ったみたいホね」

「は?」


 いつもは異世界に転移していたけど、今度はタイムスリップをしたらしい。私が状況を飲み込めないでいると、同年代くらいの少女が私達に向かって走ってきた。


「トリちゃーん!」

「アスカ! こっちだホー!」

「え?」


 どうやらその少女がさっきのアスカさんの若い頃らしい。合流した彼女は、トリの隣りにいる私に向かってニッコリと微笑んだ。


「連れてきてくれたんだね」

「え?」

「それじゃ、お宝を探しに行くホ!」


 トリがそう宣言した瞬間、私達をまばゆい光が包んでいく。気がつくと、また違う場所に移っていた。次に転移したのは、木々がたくさん生えている山の中だ。当然初めて目にする景色なので、私はトリの顔を見る。


「ここはどこ?」

「山の中だねー」


 質問に答えたのはアスカだった。山の中なのは私もひと目で分かったので、何の参考にもならない。ただ、そう答えたと言う事は、彼女もこの山について何も知らないと言う事なのだろう。

 すっかり困り果てていると、トリがくるりと振り返る。


「この山のどこかにお宝があるホ。水穂も行くホ」

「はあ?」

「アスカについて行けばいいホ」


 トリの言葉通り、アスカはずんずんと先に進んでいく。つまり、この山にあるお宝の場所を彼女は知っていると言う事なのだろう。何がなんだかよく分からないものの、私は言われた通りについていく。


「これが75年前のあんたの冒険て訳ね」

「そうだホ」

「私、このメンバーに必要なの?」

「当然ホ」


 トリは振り返らずに前を向いたまま断言する。必要とされている事が少し嬉しい。ただ、この先で私が必要になるシチュエーションを全く思いつけずに困惑もしていた。山の中にあるお宝って一体何なんだろう? パッと思いつくのは何とかの埋蔵金だけど――。

 前を歩くアスカは迷いなく山の中を歩き続け、やがてピタリと足を止めた。


「ここだよ」


 彼女はそう言うと、地面の下を指差した。どうやらお宝はそこに埋まっているらしい。ははあん、私は土掘り要因で必要だったんだ。でもスコップとか持ってないんだけど?

 最悪は手で掻き出すのではないかと思い、私はゴクリとつばを飲み込む。


「水穂、魔法ホ!」

「この世界でも使えるの?」

「当たり前ホ」


 私は言われた通りに地面に向けて手をかざす。杖なしで魔法を使うと威力が半減するので、お宝を掘り出すのには丁度いいだろう。私はまぶたを閉じて、手のひらの先に意識を集中させる。

 こうして軽く光魔法を発動させたところで、周りの土が派手にふっ飛んだ。


「うわっ。ケホッケホッ」


 吹っ飛んだ土が体全体にかかってしまい、私はむせる。それから服に飛び散った汚れを手で叩いて落とした。その間に、アスカが埋められていた箱らしきものを丁寧に掘り起こす。


「あれがお宝?」

「間違いないホ」


 この箱の中身を確認するのもアスカの役目のようだ。彼女は箱のフタについていた封のようなものを触って剥がす。ただ触れただけでそうなったので、彼女もまた何かしらの特殊な力を持っているのだろう。

 アスカがフタを開けると、中に入っていたのは大きな鏡だった。歴史の教科書で見た事がある。銅鏡って言うんだっけ? ああ言う感じの鏡。


 アスカは箱の中の鏡を取り出すと、大事そうに抱きしめる。


「良かった、無事で」


 何だかよく分からないけど、とても感動的な光景だ。お宝を手に入れた彼女の姿を眺めながら、私はトリに話しかける。


「ねぇ?」

「何ホ?」

「今回呆気なくお宝が見つかったね」

「それが普通ホ。水穂がポンコツなんだホ」


 トリの返事にカチンと来た私が両拳で彼の両サイドを力任せにグリグリしていると、アスカが私達の方に顔を向けた。


「2人共、有難う」


 彼女はそう言うと、ペコリと頭を下げる。次の瞬間、鏡を抱いたままアスカはすうっと消えていった。それを見届けたところで、私達もまた元の世界に戻っていた。

 目の前にはおばあちゃんになったアスカがいる。彼女はニッコリと微笑んだ。


「私も88歳になりましたよ」

「じゃあ、最後の儀式も済んだんだホね」

「ええ、滞りなく」


 また2人にしか分からない会話だ。蚊帳の外の私はどうしようも出来ずにただのオブジェになる。そもそも、さっきの冒険は現実の話だったのだろうか。私は過去の2人の冒険に本当に介入していたのだろうか?

 頭の中がごちゃごちゃになっていると、目の前のアスカの姿が薄くなっていく。


「水穂ちゃん、あの時は手伝ってくれて有難うね」

「え?」


 気になる一言を残して、彼女は消えた。それと同時に、いつもの風景も戻ってくる。つまり、私の周りでご近所の人がたくさん行き来していたのだ。

 顔馴染みの人達が気付く前に、急いでトリを引っ張って抱きかかえる。こうすれば、ぬいぐるみと言う事でごまかせるはず。


「水穂ちゃん、こんにちは」

「あはは……ドモ」


 お隣のおばさんに愛想笑いを返しつつ、私は回れ右して猛ダッシュ。速攻で自宅に戻ったのだった。


「いや、危なかったホね」

「お前が言うなー!」

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