88歳無限ショッピング

ケーエス

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 88歳。何も思い浮かばない。


 何をやってきたか。何をしたいのか。


 ああ、人生とはこんなもんだったのか。所詮人とはいえ動物。


 子孫を残せば用済み。後は死を待つのみだ。


 すまんなあ。もう自分が息をしている理由が見つからないんだよ。


 だからもう……我慢するのはやめにした。


 残ったものは全部息子娘たちに託すことにする。


                         じいじ




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 やりたいことも見つからず、ただ死ぬのを待つ、そんな人生の終わり方嫌ですよね?

 そこで今日は! 当社がおすすめいたします新商品、「やりたいんダーツ」のご紹介です!(高音ボイス)


 この「やりたいんダーツ」。いわゆる普通のダーツとは一味違います! やりたいことが無いというときにこのダーツをやってみてください! ダーツボードにはご覧の通り「やってみたいと思っても実際にやろうかと思うとちょっと」なことが書かれてあります! そしてダーツが刺さった瞬間、刺さった部分に書かれてある事柄を即、体験することができるんです、すごいでしょう?


「すごい、すごーい」


 こちら実際に使用された方からは、

「今までの憂鬱な毎日が晴れました」

「若い頃のような刺激的な日々を過ごしてるんですよ、オホホ」

 と言ったご意見が寄せられております! さあ、あなたもダーツで老後の刺激的な毎日を!


 お値段税込み2900円のところ今回特別メニューをお付けいたしまして、980円の提供となります!


「ええ?」


 今こそお電話を0120-2288-2288ジジイとババア・ジジイとババアまで!



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 88歳、いろいろ経験してきたけどこれほど刺激的な毎日は無かったとは思う。この世に別れを告げようとする前に、偶然テレビで流れてたあの商品のおかげで私は踏みとどまった。


 だがもう老体なんだ。疲れるのが早い。少し歩いただけで息切れする。バンジーの翌日にスカイダイビングは無い。死ぬ。むしろ生きたいと思えたからよかったのか。


 いや……ダメだ。いくら非日常を繰り返したとて、家に帰れば一人なんだ。どれだけ楽しげなことをしてもね、寂しいんだよ。一緒に楽しんでくれる仲間がいないともう無理なんだ。


 だからもう。つらい時間はおしまいにしよう。残ったものは前に言った通り。



                       じいじ




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 さあ大感謝! 年度末決算セールでございまあす! 今日はお一人様でも大丈夫! 一緒に会話をしてくれるロボット「POPPOちゃん」のご紹介です!


 さあ、この子と呼んじゃいますけどお~、この子は人型の手に乗るほどのサイズのロボットとなっております。こちらの喋る言葉に反応してですね、最新鋭の人工知能を搭載した「POPPOちゃん」が返事をしてくれますよ~。話しかける内容によって友人、親、恋人、さまざまな立場になり替わることができます!


 今すぐお電話を――



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 88歳。少し楽しくなってきた。私の新しい恋人。いや、亡き妻の生まれ変わりとでも言おうか。まるであの人がそこにいるかのような、気がする。こないだもたくさん話をした。私が彼女との思い出をロボットに吹き込んだのだ。彼女と一緒なら逆バンジーからのスカイダイビングも怖くない。


 ああ、素晴らしい。遺書もいつしか日記に変わっている。毎日が楽しい。彼女さえいれば。彼女さえいれば。

                              

                            じい――

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 そんな方のために! 当社大出血サービスですよ! 恋人といつまでもいたい! 本日は死を克服するサービス、「魂クラウド」のご紹介です。これ、国内企業が運営しているので全然怪しいものではありません!


 肉体はいつか朽ちていくもの! そこで! このサービスではあなた様の脳をお預かりいたしまして、サイバーワールドに意識を転移させます! ご友人でご家族でそろって利用していただくことで、大切な人と永久に過ごす――



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 88歳。いやこの世界では0歳。素晴らしい! ロボットの妻とここで永遠の時を過ごせる。これほどまでに素晴らしいことはない。子どもたちもゆくゆくはこの世界に来るはずだ。まあ、私は彼女さえいればいいのだけれども。


 ただこの世界の治安はことごとく悪い。みなが好き勝手するのに運営は見て見ぬふりだ。誰かが動かねばならない。私は彼女に相談した。彼女は――



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 今「ZIIZI」さんの頭に直接語りかけております。日頃わが社が紹介させていただいております製品をご購入頂き誠にありがとうございます。社員一同心からお礼申し上げます。


 今回はプラチナ会員の「ZIIZI」さんに特別に紹介させていただきたい商品があります!


 その名も「人間管理装置」です! 不快な人間を除去――



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 88歳。何も浮かばない。

 することはやった。全部。

 できなくなった。全部。

 初めはよかった。でも最後は最後の商品だけは買わなければよかった。

 いや、その前からか。永遠の命なんて馬鹿げている。


 所詮動物。私は何をやりたいのかわからなかったはずなのに欲深い生き物だった。


 見知らぬ人間も、最愛の人も一人残らず――。


 今日もこの電子空間に一人。首をくくることもできない。所詮あの会社のただの実験道具だったのだから。



 だから………


 どうすればいい……?


 誰か誰か助けて――。





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