米寿のお祝い
野林緑里
第1話
3月14日は何の日?
大概の人たちはホワイトデーだというだろうね。
でも、わたしが最初に思い浮かべるのはお婆ちゃんだ。その日はお婆ちゃんの誕生日で毎年料亭を貸しきって親戚で祝うのが我が家の習わしだった。
今年ももちろん料亭でする予定だ。
しかも今年はお婆ちゃんの88歳のお誕生日。盛大にお祝いしようなんて話をしていたのだ。
だけど、
それが叶わなくなってしまった。
いや、正直いって誕生日祝いなんてできるかどうか疑問だったのだ。
果たして可能なのか。
不安に思いながらもお母さんたちは計画を立てたいたのだが結局はだめになってしまった。
理由はひとつしかない。
なんと、お婆ちゃんのいる施設でコロナのクラスターが発生したという緊急事態が起こったのだ。
せっかくまんえい防止処置が解除されて、盛大にとはいえずとも家族だけでもお祝いしようというときにとんでもないことになった。
幸いにもお婆ちゃんはコロナ陰性だったのだが、どう考えてもが外出なんてできるはずがない。
というよりも面会もままならないのに外出できると思ってしまうのはどうかと思うけれど、誕生日。しかも米寿の祝いならいいだろうということで二時間限定で許可がでたのだ。
ただし緊急事態が起こらなければという条件で許可がでたのは三週間前(はやいよ。施設にいうのはやくねえと思う人もいるかもしれないけれど、私のお母さんの性分だ。とにかく早めにって感じで毎年料亭の予約も一ヶ月前にはしちゃうわけよ)
誕生日まで一週間をきったころに施設からのクラスターの発生の連絡。
せっかく準備していたお母さんの絶望度は半端ない。
けれど、そこであきらめようというつもりがないのがお母さんだ。
「ならば、落ち着いたらやりましょう! 誕生日祝いはできないけど、米寿は祝ってあげたいもの! そうでしょ」
本当にどんだけ、うちのお母さんはお婆ちゃんのこと好きなんだろう。
本当に嫁と姑の中は良好すぎるだろうとわたしは常々思う。
おそらくお母さんが親をはやく亡くしたことと、お婆ちゃんには娘がいなかったことも影響しているのだろあけど、ふたりの性格も関係している。
とにかく趣味やらなんやらとなにかと気が合うふたりで友達のような関係だった。
お父さんがよくいっていた。
「おれはいつものけ者だよ」ってちょっと寂しそうにしていたものだ。
そういうことでお母さんはいつも使用させてもらう料亭との交渉なんかをしたりして、クラスターが収まって、外出ができるようになるのをまった。
それから、一ヶ月後、ようやくお婆ちゃんの外出許可がでたのだ。
もちろん、コロナが収まったわけではない。
だから、二時間の限定で参加者全員がワクチン三回売っていることと全員が抗原検査で陰性であることが条件だった。
もちろん、せっかくクラスターのなかにいたのに感染しなかったお婆ちゃんを感染させるわけにはいかないから、感染予防には徹底してからの米寿のお祝いた。
参加者は私たち家族の五人とおじさん家族の四人の九人だった。
本当にお婆ちゃんは嬉しそうだった。
ニコニコと笑顔を浮かべたかと思うと、「ありがとう。ありがとう」と何度もお礼をいいながら涙をこぼしたりしていた。
たったの二時間だったけど、面会も外出もできずにただ施設で過ごすしかなかったお婆ちゃんにとってはどんなにうれしいことだったのだろうか。
一ヶ月おくれの
88歳のお祝い
そして、
米寿のお祝い
とりあえず
大成功したのであった。
米寿のお祝い 野林緑里 @gswolf0718
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