No.12【ショートショート】狼たちの偽言
鉄生 裕
狼たちの偽言。
家のドアを開けリビングへ行くと、眼鏡をかけた見ず知らずの男がソファーに座っていた。
「誰だ!ここで何してるんだ!?」
すると、眼鏡の男は慌てた様子で、
「違うんです、聞いてください。私は学校で息子さんの担任をしている者です。今日は息子さんの件でお話があって来たのですが、少しだけここで待っていてくださいと奥様に言われまして。」
スーツの男にそう説明した。
「・・・ああ、そういう事でしたか。それは失礼しました」
誤解が解けて安心した様子の眼鏡の男は、スーツの男に、
「あの、失礼ですが旦那様ですよね?」
と尋ねた。
「いつも息子がお世話になっております。あの、本当に失礼いたしました。自分の家に見ず知らずの方がいたので、さすがに驚いてしまって。ところで、妻は今どこに?」
「どこに行かれたのかは分からないのですが、すぐに戻ってくると仰ってました。それより、私の方こそ驚きましたよ」
担任は夫に向かってそう言ったが、夫は彼の言う意味がわからなかった。
「すいません、別に深い意味は無いんです。ただ、旦那様は出張中だと奥様からお伺いしていたので」
「私のことも妻から聞いていたんですね。実は思っていたよりも早く仕事が片付きまして、数日早く帰ってこれたんですよ。それで、息子は学校ではどうですか?ご迷惑はおかけしていないですか?」
「旦那さんもご存じだと思いますが、テストでは毎回上位ですし、クラスでもとても人気者ですよ。迷惑だなんてとんでもない」
「そうでしたか。それは安心だ」
すると、誰かが家のドアをドンドンと叩く音が聞こえた。
「誰でしょうか?奥様が戻られたんですかね?」
「ちょっと見てくるので、少々お待ちください」
そう言うと、夫は玄関の方へ行きドアを開けた。
そこには、金髪の男が立っていた。
金髪の男は夫の顔を見るなり、
「あんた誰?ここで何してんの?」
ぶっきらぼうにそう尋ねた。
「君こそ誰だ?それに、自分の家にいることに何か問題でも?」
夫がそう言うと、金髪の男は気まずそうな様子で、
「あの、もしかして旦那さんですか?いや、その・・・すんません。僕は・・・、その・・・、奥さんの妹さんとお付き合いをさせていただいている者なんですけど・・・。お姉さんから、旦那さんは出張中だって聞いていたもんで」
自分が何者かを必死に説明した。
「なるほど、そういう事だったのが。悪いが、妻はちょうど外出中でね。よければ上がっていくかい?」
「いえいえ、また今度来ますよ。家近いんで、いつでも――――」
金髪の男が話していたその時、家の中からゴンという大きな物音が聞こえた。
最初は担任が何かを落としたのかと思ったが、
「大きな音がしましたけど、大丈夫ですか?」
と言いながら、担任が玄関までやってきた。
「てっきりあなたが何かを落としたのかと思ったのですが、違うんですか?」
夫は担任に言った。
しかし、担任は首を横に振りながら、物音の原因は自分ではないと言った。
すると、金髪の男が、
「あの部屋から聞こえた気がしましたけど」
と言いながら、玄関からリビングまで行く途中にあるいくつかの部屋の一つを指さした。
そこは、息子の部屋だった。
三人は恐る恐る物音がした部屋のドアを開けた。
すると、制服を着た青年が小窓からちょうど出ようとしているところだった。
「ちょっと君!何をしているんだ!危ないから窓から早く離れなさい」
そう言いながら、夫は青年の腕をつかんだ。
「君はいったい誰なんだ?人の家で何をしているんだ?」
夫がそう尋ねると、
「すいません。会話は全部聞こえてました。僕はアキラ君の友達なんですけど、アキラ君のお父さんですよね?」
青年は怯えながら夫にそう言った。
「なんだ、アキラの友達か。でも、どうして一人でこんなところに?しかも、なんで窓から出ようとしていたんだ?ここは三階だぞ、危ないじゃないか」
「アキラ君のお母さんに、ここで待っているように言われたんです。そしたら次から次へ人が来るから、この部屋から出るに出れなくなっちゃって。それで、窓から出ようかと思って」
それを聞いた担任は、
「という事は、つまり君は僕がここに来る前からずっといたって事かい?」
と青年に尋ねた。
すると青年は、首を縦に振りながら、「ずっとこの部屋にいました」と言った。
「ひとまず皆さんが誰かわかった事ですし、リビングへ行きましょうか」
夫にそう言われた三人は、黙ったままリビングへと向かった。
四人がリビングに着いたその時、またしても家のドアが開く音が聞こえ、
今度はスーツケースを持った男がリビングに入ってきた。
スーツケースの男は四人を見るなり、
「あんた達は誰なんだ?人の家で何をしているんだ?」
と声を荒げながら言った。
すると、担任は夫を指さしながら、
「人の家?何を言っているんですか。ここはあの方の家ですよ」
とスーツケースの男に言った。
しかし、スーツケースの男は、
「お前は何を言っているんだ?ここは俺の家だぞ!いいから、お前は誰だか言え!」
と担任に怒鳴るように言った。
そこで担任はまたしても夫を指さしながら、
「私は、彼の息子さんが通う学校の担任です。彼の息子さんであるアキラ君の担任ですよ」
と、自分が何者かをスーツケースの男に説明した。
それを聞いたスーツケースの男は、さらに激怒した様子で、
「アキラの担任だって!?ふざけるな!アキラは小学生の時に、何年も前に事故で亡くなっているんだぞ!」
と担任に怒鳴った。
それを聞いた金髪の男は、
「いったいどうなってんだよ・・・。いや、ちょっと待てよ。小学生の時に死んだってことは、それじゃあお前は何者なんだ?アキラの友達って言ってたよな?」
制服を着た青年を睨みつけながら言った。
追い詰められた青年は、逃げるようにリビングのドアに向かって走った。
しかし、金髪の男は青年を腕をグッと掴み、
「待てよ、逃がさないぞ」
と言った。
それを見ていたスーツケースの男は、
「ちょっと待て。そういうお前は誰なんだ?」
と金髪の男に向かって言った。
「俺は、付き合ってる彼女のお姉さんに挨拶に来たんだよ。そしたら、家にこいつらがいたんだ」
それを聞いたスーツケースの男は、
「つまりお前は、妻の妹の彼氏だと言いたいのか?確かに妻に姉妹はいるが、妻にいるのは妹じゃなくて姉だぞ?」
そう言いながら、金髪の男を睨みつけた。
だが、それを聞いていた担任がすかさず、
「ちょっと待ってください。今、妻って言いました?という事は、本当にあなたが旦那さんなんですか?だとすると、あなたはいったい・・・」
夫の方を見ながらそう言った。
誰一人として、この状況を理解できている者はいなかった。
そんな中、またしても玄関のドアがギギギと開く音が聞こえた。
No.12【ショートショート】狼たちの偽言 鉄生 裕 @yu_tetuki
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