お人好しの自分と笑うしかない地獄の相続
熊坂藤茉
エンターテイメントと受け止めよう(正直大分無理だけど)
お笑い
重要なのは物の見方。観測者がどう判断するかで、それの捉え方は如何様にもなるのである。
「だからこのやべー額の借金も笑い話に」
「どう足掻いてもなりませんからね!? 何で相続放棄しなかったんですか叔父様は!」
甥っ子の手厳しい言葉に、思わずぐぬぬと押し黙る。まあ、実際問題あっちの意見が正しいし? マイナス面しかない相続は放棄するに限るってのは分かってる。
「いやぁ、だからって放棄したらここんち無くなっちゃうし……」
「差し押さえされてるからほぼほぼ行き着く先は変わらないのでは?」
「うーん正論がつらい」
ぷりぷりと怒る甥っ子だけど、言葉の端々に滲む丁寧さに育ちの良さを感じてしまう。この家をドロップアウトした自分とは偉い差だ。
もう随分と昔の話だ。小さい頃の口約束。息子も娘も後を継ぐ気がない。遠方で生活するようだからこの家がなくなってしまう。しょげた顔でそう話すのを見てしまった自分は、ついこう言ったのだ。
「じゃあ、大人になったらばーちゃんちの子になるよ。それで、この家を守るんだ」
そんな軽口を叩いて祖母を困らせた、いつかのあの日。彼女はある意味で、大変律儀にそれを守り叶えてくれた。養子縁組とかではなく、正式な遺言書という形を以て。
ただ誰にとっても予想外だったのが。
「ばーちゃん、『取り敢えず残す額が多ければ多い程いいわよね』って借金しまくってから競馬の一点買いで大惨事になるのは誰も想定してないよ……」
これこそ悲喜劇。ギャグ漫画のネタにすらしづらいレベルのお笑い種だ。今は引退した芦毛のやべー馬の再来を叫ばれる奴に全てを託すのは、度胸試しにも程がある……。
結果、自分指名で相続させる(ただし借金の方が圧倒的に多い)という遺言に、ばーちゃんの実子(うちの親含む)は喜んで相続を放棄した。……やっぱドロップアウトしたの正しかったんでは?
「さて、実際問題どうするかなあ……」
まずは関係者に連絡だ。借金減額手段が何か見付かったりするかもしれない。
「ま、今がアレでも将来的には、ねえ」
最終的に自分が笑っていられればいい。
だから、こんな微妙な〝
お人好しの自分と笑うしかない地獄の相続 熊坂藤茉 @tohma_k
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます