第13話 新人冒険者 中
「町の中心から東西南北に向かって、十字に大通りがある」
グランとレグノワは、ギルドの前から移動して町の中心部に向かっていた。
「冒険者ギルドは東側の大通りに位置してる。町の中心には広場があって、両手で球を掲げている人物の石像が立ってる」
「へぇ…」
「広場の周りの地区は町の主要施設や、いろんな店があるから商業区って言われてるな。それと、領主様の別邸もある」
「領主様?」
「あぁ。トラメス町や他の町を含めた広い土地を治めてる。たまに町で見かけるよ」
(領主様か…そりゃあ国があって土地もあるんだから領主様もいるか…)
「商業区の外側の地区が居住区だ。そんでグルっと塀があって、大通りにつながるように4つの門がある」
――――――
「さぁ、ここが広場だ」
「わぁ…」
まだ昼前の広場の端っこで、レグノワは辺りを観察するように眺める。
広場の中心には噴水があり、真ん中の高い位置に石像が立っている。
(村の広場は噴水も石像も無かったし、もっと小さかったな。…でも)
お花や小物などが並んだ屋台がいくつか出ており、町の人達の楽し気な声が聞こえてくる。
広場を囲むように建てられている建物の前には、いくつもの花壇が並んでいて、色とりどりの花々が風に吹かれて揺れている。
穏やかで、緩やかな光景が、レグノワの前に広がっていた。
(…この確かな幸福に包まれた、暖かな空気は)
―…―…―…―
黙り込んだままのレグノワに、グランは視線を向けた。
(どうしたんだ?)
レグノワは、ぼんやりと広場を眺めている。
(これといって特別な広場ではないと思うんだが…)
グランは広場に視線を戻しながら、ふと思い出した。
(そういえば…宿泊広場から出たがらない人、村に戻った人がいると報告があったな)
(町の穏やかな雰囲気から、村での出来事を思い出してしまうんだろう)
グランはもう一度、レグノワに視線を向ける。
(この子は大丈夫だろうか?)
―…―…―…―
(村での日々を思い出しちゃうな…)
村は子供たちの遊んでいる声や、村の人のにぎやかな声であふれていた。
特別なことは何もない、平穏な村だった。
(…それなのに)
「レグノワ、大丈夫か?」
「…大丈夫です。ちょっと村の事を思い出してました」
「…そうか」
「はい。村の広場はここより小さかったんですけど、いつもにぎやかでした」
「……」
「もう戻れないし、戻らないんですよね」
「レグノワ…」
グランは寂しそうな
どう言葉をかけていいか、悩んでいるようだった。
「でも、大丈夫です。とりあえずの目的があるので、頑張れます」
「そ、うか。…無理はしないようにな。疲れたら、しっかり休むんだぞ」
グランが心配しているのがわかったレグノワは、安心させるように笑いかけた。
「はい、ありがとうございます」
――――――
2人は噴水の前に立って、大通りを見る。
「今来たのが、あっちの東側だな。反対の西側の大通りには商業ギルドがあるぞ」
「商業ギルド?」
「その名の通り、商人たちのためのギルドだな。原則、ギルドの許可が無いと商売が出来ない」
「へぇ…」
「大通りじゃない細い道はクモの巣状になってて――」
「――と、大まかにはこんなもんかな。後は歩き回って場所を把握しようか」
「はい!」
レグノワは町中の説明を受けた後、移動する前にグランに声をかけた。
「あの、グランさん。ちょっと気になってたんですけど、いいですか?」
「どうした?」
レグノワは噴水の上の石像を見上げる。
「この石像って、誰ですか?」
(なんか、見覚えあるんだよな。)
「あぁ、それは…」
「それは?」
「…わからん」
「……え?」
(なんで、もったいぶったんだ。いま?)
レグノワは一瞬きょとんとした後、グランに少し冷めた目を向けてしまった。
グランは少し慌てたように説明を始めた。
「ん"ん"っ。この石像はな、大陸中のあちこちに置かれてるんだ。町中にも、森の中にもな」
「大陸中に?」
レグノワはギルドで見た地図を思い出す。
(大陸の大きさは分からないけど、だいぶ広いよね?)
「それに石像は、国も何も関係なく同じ見た目をしているらしいんだ。…実際に、俺が今まで見かけた石像は全部同じ見た目だったな」
グランは思い出すように目を閉じながら話した。
「えぇ…それは、とても奇妙…じゃなくて、えっと、不思議!…ですね」
「ふはっ、そうだな」
グランは、ついうっかり本音が出たレグノワの様子に少し笑ってから、また説明し始めた。
「この石像のモデルや制作者は解明されてないが、ほとんどの町や王都に、同じ石像がある」
「…なにか、理由が?」
「それが、石像には神聖な力が宿ってる、らしい」
「らしい」
「あぁ。俺にはわからんが、教会の奴らはそう言ってるな。だが、確かに不思議な力はあるんだ」
「不思議な力?」
「石像を含めて、周りの土地には凶暴な魔物や獣が近寄らないんだよ」
「へぇ!…だからこの町の石像は、町の中心にあるんですか?」
「だろうな。どの町にも王都にも石像はあるって言ったが、この町と同じように、ほとんどが中心か中心部にあるな」
「なるほど…」
レグノワは石像をまじまじと見て、ある考えに至った。
(石像を作ったのって、もしかして…)
――――――
レグノワは、グランと町中を散策しながら、新人冒険者の1日の大まかな過ごし方について説明を受けていた。
「午前中は町の外の簡単な依頼を受ける。ほとんどは薬草採取や小動物の狩りとかだな。基礎的なサバイバル知識を身に付けるためにやってもらってる」
「昼食後に町中の依頼。これは大通りや屋台通りの手伝いや清掃が主だな。だが、意味合い的には新人冒険者と引率者の町人への顔見せだ」
「その後はほぼ自由時間だな。戦闘訓練や町中の散策をしてる奴らが多い」
「なるほど…」
「戦闘訓練は原則、引率者がいないと禁止されている」
「そうなんですか?」
「あぁ。武器の扱い方もそうだが、スキルや魔法の訓練は危険だからな。ただ、冒険者ギルドの裏にある訓練所は指導出来るヤツが常駐してるから、引率者がいなくても使っていいことになってる。うまく活用してくれ」
「はい、わかりました!」
――――――
昼過ぎになり、グランとレグノワはギルド横の食堂に入った。
賑やかな声とともに、なんとも空腹を刺激する香りがレグノワ達を包む。
「わぁ…いい匂いがする…」
途端にレグノワのお腹がぐぅぅ…と鳴った。
「ははは!もう昼過ぎだもんな、腹減ったな!」
「う、はい…」
レグノワはお腹が鳴った恥ずかしさで顔が熱くなるのを感じながら、視線をきょろりと動かした。
食堂内は2階建になっていて、出入り口から入って正面にカウンターがあり、左右の壁際に2階へと続く階段がある。
「料理の注文は真ん前のカウンターでするんだ。ちなみにこれがメニュー表だ、見てみるといい」
グランが出入り口横に設置されたラックからメニュー表を取り、レグノワに手渡した。
「ありがとうございます。えーと…」
メニュー表は4ページほどの冊子だった。
ペラリとページを捲り、目についたのは『白パン』と『肉団子と野菜のスープ』だった。
(白パン、か…黒パンも有るみたいだけど、気になる……あと、パンにあわせるなら、スープがいいな)
「グランさん。この白パンとスープがいいです」
グランはレグノワが指差したメニューを確認しながら、なんとも言えない
「どうしたんですか?……これ美味しくない、とか?」
「いや!そういうわけじゃない、此処の飯はどれも美味い!……が、それだけか?少なくないか?」
「…足りると、思います」
「…わかった。もし足りなかったら、追加すればいいか!」
そう言って、カウンターに向ったグランに置いていかれないように、メニュー表を元の位置に戻したレグノワも、カウンターに向かった。
注文後、2階に上がり空いている席に座って話していると、注文した料理が運ばれてきた。
レグノワの前には『白パン』と『肉団子と野菜のスープ』、グランの前には『白パン』と『肉団子と野菜のスープ』、『ステーキ』が置かれた。
「うわ…そのステーキ、ずいぶん大きいですね…しかも3枚も…」
テーブルに置かれたステーキの大きさと量に少し引いてるレグノワを見て、グランは少し笑った。
「俺ぐらいの体格の冒険者ならコレと同じか、もっと食べるぞ。さぁ、冷めないうちに食べようか!」
食べ始めたグランを見て、レグノワも気を取り直して食べ始めた。
(これが白パン、初めて見た…ふわふわだ)
レグノワは手に取った白パンをちぎり、口に入れた。
(!ほんのり甘くて、とても美味しい)
肉団子と野菜のスープは想像より大きめの器で具沢山だった。
(思ってたより、量が多いな…肉団子も大きいし、野菜も大きめにカットされてる。食べごたえがすごい…)
レグノワは自分の分の料理を食べながら、グランの方を見た。
グランが口を大きく開けて食べているステーキは、レグノワの手よりも大きくて分厚い。
肉は香ばしく焼かれていて、スパイスのいい香りもする。
見た目と匂いだけで美味しいだろうと確信できる。
(食べてみたいけど、絶対に食べきれないな)
「はぁ!食った食った!」
「思ってたより量が多かったですけど、すごく美味しかったです」
レグノワの言葉にグランは満足そうにしていたが、ふと真剣な
「…にしても、レグノワは少しずつ食べれる量を増やしていかないとな!」
「えっと、少ないですかね?」
「いや、少ないってほどでもないが…」
グランはレグノワをまじまじと見た。
「冒険者は身体が資本だからな。背を伸ばしたり筋肉をつけるためにも、もっと食べれるようになったほうがいいかもな」
レグノワは自分の身体を見た。
筋肉が無い訳では無いが、グランや他に見かけた冒険者と比べると、確かに細く小さい。
「……頑張ります」
グランは、心なしか肩を落としたレグノワを励ますようにポンポンと肩を叩いた。
壊れた世界から ようこそ。 やこうせい @hnkmhr
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