新人冒険者

第11話 新人冒険者 前


「んん…」


まだ少し肌寒い空気の中、寝袋が動いた。


「んー…?」


(…さむい)


寝袋に頭までスッポリと潜り込んでいたレグノワは、ショボショボと薄目を開ける。

(今日は…あー…グランさん…と、?…なにするのかな…)


「うー…」

もそもそと這い出たレグノワは、そのまま寝袋の上で座り込む。


(疲れてたからかな、よく寝れた)

レグノワはのろのろと立ち上がり、テントから出た。

(とりあえず、顔洗お…)



(もう何人か起きてるみたいだな)

明かりの点いたテントや広場を歩く人達を横目に水場へ移動する。

(う!つめたい…)

冷たい水で顔を洗ってスッキリしたレグノワはテントに戻った。

(えっと、今日はどうするんだろう?)

昨日の夜に並べたままの装備品を見る。

(とりあえず、着替えよう)


レグノワはボウィナイフをレッグポーチに仕舞い、装備品をつけて外に出た。

(うーん…今日も天気が良さそうだな)

テントの前で、軽く身体を動かす。


暫くすると、広場の入口の方からこちらに向かって歩いてくる人影に気がついた。

レグノワが気がついたのが分かったのか、手を振っている。


「おはよう、いい朝だね!」

「おはようございます、ネリさん」

声をかけてきたのは、村で世話になったネリだった。

「数日ぶりだねぇ、元気そうでよかったよ」

「はい。ネリさんも、お元気そうでよかったです」

ネリはレグノワの格好を確認して、笑顔になる。

「冒険者になったんだって?兄貴に聞いたよ」

「あにき?」

「あ!グランのことだよ。あたしとグランは兄妹きょうだいなんだ!」

「そうだったんですね!」



「おはよう、レグノワ君」

ネリと2人で話していると、声がかけられた。

「グランさん!おはようございます」

「お、兄貴。おはよ!」

「ネリ。やっぱり、来てたか」

グランは呆れたようにネリを見た。

「いいだろぉ、別に」

「はぁ…まったく」

グランはレグノワに視線を移した。


「今日は、ギルド周辺の施設を案内する予定だ」

「施設ですか?」

「あぁ。その前に、朝飯を食べに行こうか」

「あ、あたしも行く!」

ネリが元気よく声を上げる。

「…すまん、レグノワ君。一緒で良いか?」

グランが申し訳なさそうに、チラリとネリを見た。

「もちろん!みんなでご飯、楽しみです!」

「やった!」

レグノワの反応にネリも嬉しそうだ。


「そうだ、レグノワ君」

「はい」

「今日から冒険者用の宿舎に移ってもらいたいが、大丈夫だろうか?」

「大丈夫ですけど、宿舎があるんですか?」

「あぁ。家を持っていない冒険者は満室じゃない限り、ギルドが認可した宿舎に入ることになってる」

「そうなんですね」

「そう!緊急時とかに、迅速に対応出来るようにするためだって」

「なるほど。…じゃあ、荷物を持ってきた方がいいですか?」

「そうだな、持ってきてくれ。朝飯を食べたら、早速宿舎に行こうか」

「あ!テントはそのままでいいからね~」


家から持ってきたマジックバッグを肩からさげて広場から屋台通りに向かう。

レグノワは、気になったことをきいてみた。

「冒険者以外の旅の人達はどうするんですか?」

「町によって対応が違うが、基本的に自由だな。宿をとるやつもいるし、宿泊広場に泊まるやつもいる。」


─────


屋台通りで朝食を食べたあと、3人はギルドの前にいた。

ギルドを正面にみて、右隣に冒険者用宿舎があった。

「宿舎ってギルドの隣だったんですね」

「そ!いい場所だろー?」

ネリが得意げに笑う。

「隣がギルドなだけあって、騒がしいがな」

グランは肩をすくめながらそう言って、宿舎の正面入り口の扉を開けて中に入る。


宿舎は2階建てで、正面入口から真っ直ぐの廊下が奥の突き当りまで続いている。

「おはよう、いらっしゃい」

入口から入ってすぐ左側にあるカウンターから、50代前後の背の高い男性が声をかけてきた。

「おはよう、マスロ」

「おはよ!」

グランとネリが男性と挨拶を交わすのを見て、レグノワも慌てて挨拶をする。

「おはようございます。初めまして、レグノワです」

「はい、初めまして。私はこの宿を任されている、マスロです。よろしくね」

マスロと名乗った男性は、柔らかく笑んだ。

「頼まれてた部屋は、もう準備できてるよ」

「頼まれてた?」

レグノワはグランを見上げる。

「あぁ。昨日、登録が終わったあとにな」

「昨日…ありがとうございます」


「はい、これが部屋の鍵。2階にある14号室、角部屋だよ」

マスロが鍵をカウンターの上に置いた。

「ありがとうございます」

「とりあえず、簡単に間取りを説明するね」



カウンターの隣には2階に続く階段。

廊下を挟んで右側に洗濯室とシャワー室。

廊下を奥に進むと、2~4人向けの部屋が廊下を挟んで2部屋ずつ計4部屋ある。

2階には1人部屋が10部屋。

階段の向かいにシャワー室がある。



「まぁ、見れば分かる簡単な造りだから、大丈夫だと思うよ」

「はい」

「宿舎には、いくつかのルールがあってね」


★☆★☆★

・部屋のカギは必ず閉める

・鍵を失くさない

・他の人の部屋には勝手に入らない

★☆★☆★


「簡単で当たり前の事だけど、たまに守らない人もいるからね…酔っ払いとか特にね」

「はい、気を付けます」

「あとは…あぁ、シャワー室は自由に使って良いよ。浴槽はないから、お湯に浸かりたい時は町中の共同入浴場を利用してね」

「はい」

「こんなところかな…さて、部屋まで案内するよ」

レグノワと向き合っていたマスロは、グランとネリに視線を向ける。

「2人はどうする?ついてくる?」

「いや、俺たちは外で待ってるよ。な?」

「うん、そうだね。レグノワ、急がなくて良いからね」

「はい、ありがとうございます」

お礼を言ったレグノワに、グランとネリは頷いてから正面入口から外へ出ていった。

「行こうか。こっちだよ」


「この部屋だよ」

マスロに案内された部屋は、階段から1番遠い角部屋だった。

部屋の中には、ベッド、クローゼット、机、イス、空の棚が置いてあった。

「部屋の中の家具も好きに使ってね」

「はい」

「じゃあ、私は先に下に戻ってるね」

「ありがとうございました」

レグノワはマスロを見送ってから、自分の部屋、14号室に入った。


(とりあえず、マジックバッグはこのままクローゼットに入れちゃおう)

レグノワはマジックバッグから荷物は出さずに、備え付けのクローゼットに仕舞った。

(急がなくて良いって言ってたけど、待たせるのも悪いしね)

部屋を出て、鍵をかけたことを確認してから1階に降りた。


「おや、はやかったね」

「はい。荷物を出すのは時間かかりそうなので、後にしようと思って」

「なるほど」

マスロは、うんうんと頷いている。

「そうだ、グランがついてるから危険な事はあまりないと思うけど、気を付けてね」

「はい」

「それじゃあ、いってらっしゃい」

「ぁ…はい、いってきます」

手を振るマスロに、手を振り返して、宿舎の外に出る。

(いってらっしゃい。って言われたの久しぶりな気がする)


「お待たせしました」

「お?はやかったな」

外に出るとネリの姿は無く、グランしかいなかった。

「…あれ?ネリさんはどこへ?」

「あー…ネリは、外に出てすぐに他の冒険者に呼ばれちまってな」

「何かあったんですか?」

「いや、大したことは無いよ。俺とネリは固定のパーティーを組んでないから、欠員が出た時なんかは助っ人に呼ばれることも多くてな。今回もそれで呼ばれたんだ」

「へぇ、それは大変そうですね」

「はは、そうでもないさ。人手が足りてないのに無理して怪我したり死んだりするより、助っ人として呼んでもらった方がいいからな」

「グランさんもネリさんも頼りになりますからね」

「お?そう言ってもらえると嬉しいな!」

グランは本当に嬉しそうにレグノワの頭を撫で繰り回した。


「さて、宿舎の次は、冒険者に大人気の食堂だな」

「食堂、ですか?」

レグノワはぐしゃぐしゃになった髪の毛を手櫛で整えながら、グランを見上げる。

「あぁ。屋台通りも人気だがな、この食堂は冒険者だと少しだが値引きしてくれるんだ。種類も多くて、量も多い。ギルドの隣なのも人気な理由の1つだな」


食堂はギルドを正面にみて、左隣にあった。

「食堂、ギルド、宿舎って並んでるんですね」

「そうだな。わかりやすくていいだろ?」

「はい」

「食堂では弁当や保存食の類も売ってるから、ギルドで依頼を受けて、食堂に寄ってから出発するやつらも結構いるな」

「なるほど、便利ですね」

「そうだろ?」

食堂の中からは賑やかな声が聞こえている。

「朝と夕方から夜までは混んでるが、昼間は比較的すいてるな。今日の昼はここで食うか?」

「はい!」

「ははは。じゃあ、腹を空かせないとな。今日は町中の散策をしようか」

「散策ですか?」

「そう、これが意外と大事なんだ。町中の居住区や商業区などを把握することで、町中の依頼はしやすくなるし…レグノワはこの先旅に出るんだろ?」

「はい」

「地理を把握する癖を付けとくと、危機回避にも役立つからな」

「なるほど」

(場所によっては治安が悪い所があっても、おかしくない。情報を集めても場所がわからなければ意味無いもんな)


「じゃあ行くか」

「はい!」

「まずは大通りから。町をぐるっとしようか」

レグノワはグランの後について歩き出す。



(そういえば…いつの間にか、君付けじゃなくなってたな。仲良くなれたみたいで嬉しいな)



 

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