魔法の言葉
きと
魔法の言葉
「よう。
幻覚を見ているのか、と男は思った。
そう思うのも無理はないだろう。
なぜなら、男はつい先ほど自分の部屋で首を
誰も助ける人などいないはずなのに。
それなのに、目の前には確かに自分以外の“何か”がいる。天井であるはずの場所に足をつけて、かがんでこちらをニタニタと気色の悪い笑顔で見ている。
その時、首を吊っていた男は気がつく、
苦しくない。確かに今の今まで、苦しくて
「兄ちゃん。あんたがどういう経緯で自殺なんてしようと思ったのかは、興味はない。でも、どうだ? もう少しばかり生きてみないか?」
目の前の“何か”は、変わらずニタニタとしながら問いかけてくる。
もう生きていたくないからと思って決行した自殺。自殺をすることで気が付いた、死の苦しみ。
こんなにも苦しいものだとは思わなかった。やっぱり死にたくない、と思うほどには。
でも、もしもう一度生きることができるなら。
「い、生きたい。もう一度生きてみたい」
「……なら、契約成立だ」
ぶちっと、首を吊るしていたロープが千切れ、男は床に落ちる。
ゲホゲホと激しく
改めてみると、話しかけてきていた目の前にいる“何か”は人間の姿をしている。
男が落ち着くのを見ると、“何か”は話しかけてくる。
「さて、話の続きをしよう。これを見てくれ」
“何か”は、喪服の上着のポケットから取り出したものを男に見える。
それは、
「いいか? これを身に着けている時に『アモクテ』と言えば、お前の望みが現実になる。ただし、注意しないといけないことがある」
「……なんだ?」
「望みを叶えると、寿命を1日消費する。だから、使いすぎるなよ」
寿命を1日。確かに注意しなければならないが、そこまで大きな代償には思えなかった。
もし、この話が本当なら男の人生はバラ色の人生だ。
死ななくてよかった。男は、心底そう思った。
男が何かに出会ってから、1週間がたった。
男は、ネックレスの力で思うがままに生きた。と言っても、ネックレスの力を使ったのは15回ほど。まだまだ代償のことは、頭の片隅にある程度の物だった。
先ほども仕事でミスしたが、ネックレスの力でムカつく上司のせいにしてやったところだ。
「はぁー、最高の気分だ。あのクソ上司、自分のせいになるとは
さて、時刻は昼過ぎ。食事を早めにして、仮眠でも取るとしよう。
そうと決めれば、早速財布を持ってコンビニへと足を向ける。
早くしなければ、お気に入りのナポリタンスパゲッティが売り切れてしまう。
徒歩で5分程でコンビニに着く。お気に入りの品は、どうやら売り切れてはいなかったようだ。
レジでナポリタンスパゲッティを温めてもらい、会社へと戻る。横断歩道の信号が青に変わる。
その時だった。
トラックが男のもとへと突っ込んできた。
「……っ! アモクテ!」
男は、とっさに叫んだ。願ったのは、もちろん自身の無事。
だが、そんな願いも
男は、意識は失わなかったものの激痛が走る。だが、男はそんなことを気にしていなかった。
考えることは、ただ一つ。
――なぜ、願いは叶わなかった?
ヒューヒューと、か細い息をする男の目の目の前に、また“何か”が現れる。
「てめぇ、どういうことだ!? 願いを叶えるんじゃなかったのかよぉ!」
「ああ、そうだ。実際にお前の望み通りに色々と物事が進んだんだろ?」
「じゃあ、今のこれはどういうことだ!?」
“何か”は、面倒くさそうに首に手を当てて答える。
「言ったはずだよな? 力には代償があると」
「それが、どうし……た……」
男は、言いながら気づいてしまった。
願いを叶える代償は、寿命の1日分。
今の今までは、願いが叶っていたという事実を考えると……。
“何か”は、ニタリと口を気味悪く
「いったいいつ誰がお前の寿命があと何年もある、なんて言ったんだよ?」
魔法の言葉 きと @kito72
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