よみのゆめ
霧沢夜深
よみのゆめ
先生には言ってなかったと思うんですけど、僕、夜勤のバイトやってるんですよ。いや、やってたんですよ。最近やめたんですけど。
で、そのバイトって終業時間が0時とかなんで、家に帰り着く頃には余裕で1時過ぎちゃうんですね。そっから昼過ぎまで眠るっていう、完全に昼夜逆転の生活を送ってたんですけど。
3ヶ月くらい前からかな、変な夢をみるようになったんですよね。
一人称視点なんですけど、どこかの道を歩いてるんですよ。あれ? この道なんか見覚えがあるなーとか思ってたら後ろから「おはよー」って声をかけられたんです。
振り返ったら制服着たJKっぽい子が立ってて、その子と並んで歩き始めたんですよね。いや全然知らない子ですよ。でも、その子は僕のこと知ってるみたいで。
その辺りで気がついたんですけど、僕が僕じゃないんですよね。スカート履いてたし、その子と同じ制服着てたんですよ。
そこで目が覚めました。8時くらいでしたね、朝の。そのあと思い出したんですけど、夢の中で僕が着てた制服、どっかで見たことあるなって思ったら近所の女子高のやつだったんです。たまに下校中の生徒を見かけるから覚えてたんですね。
いや恥ずかしかったですよ。自分で自分に引きましたね。いくらモテないからってJKになる夢見るとか、自分ヤバくね? って思いました。
でも次の日も同じような夢見たんですよ。教室で授業を受けてる夢を。
夢なのにすごく感覚がリアルで、周りの生徒がノートを取ってる音とかはっきり聞こえるんです。本当に教室の中で授業受けてるみたいでした。
そういう夢を、定期的に見るようになったんですよ。前は夢なんて月に一回見るかどうかって頻度だったんですけど、週に1、2回は自分がJKになる夢を見るようになったんですよね。
俺、本格的にやばいのかもなって。もし今後も同じ夢を見続けるようだったら精神科に行こうと思いました。その頃ですね、先生のこと知ったの。
夢自体は特に変なことはなかったです。登下校中とか、友達とおしゃべりしたりとか、もう本当に普通の女子高生の日常って感じで。
そんな夢を見続けるうちに気づいたんですけど、一個勘違いしてたなって。僕、自分が女子高生になってると思ってたんですけど、違うんですよ。
夢の中では、音とかは普通に聞こえるんですけど、例えばこっちに行こうと思っても行けないんですよ。僕の意思とは無関係に体が動くんです。
つまり、僕は自分がJKに変身してると思ってたんですけど、そうじゃなくて、なんか、イメージ的には僕が幽霊になってその子の中に入って、その子の目を通して周りを見てる、みたいな。そういう感じなんですよ。まあどっちにしてもやばいんですけど。
で、バイトが休みの日があったんですね。夜なんもないんで、昼から飲んで夜10時くらいに寝たんですよ。まあ世間的には普通の就寝時間ですけど。
またその夢見たんですよ。もうなんか慣れてて、あ、またこれか〜って感じだったんですけど、ちょっといつもと違ったんですよ。
まず夜なんですよね。今までは朝か昼間だったんですけど、その時は夜で。で、学校じゃないんですよ。どっかの道なんです、夜なんで真っ暗だったんですけど。
僕、あって思って。知ってる道だったんですよ、そこ。っていうか毎日バイト先に行く時に通る道だったんですよね。
制服じゃないし、その道の先にあるコンビニの袋を持ってたんで、あーなんか夜中にちょっとコンビニに行ったのかな、とか思ってたんですけど。
急に、目の前が地面になったんですよ。
え? って思ってからああ、倒れたのか、って分かったんですけど。首を掴まれたんですよ。誰かに。で、僕もう無我夢中になって、いや、僕って言うか「その子」ですけど。暴れて仰向けになったんですよ。
男が馬乗りになってて、そいつが左手で首を押さえてるんですよ。で、右手にはナイフ持ってて、いやいやいや、なになになに? とか思ってたらそいつがナイフを振り下ろしたんです。
そこで目が覚めました。朝6時とか、その辺でした。首掴まれた感覚とか、はっきり残ってて、汗びっしょりかいてました。二度寝なんてできませんでしたね。
その日はバイトがあったんです。もう全然行く気になれなかったんですけど、気を紛らわせたいから家を出て、そんで夢で見た道の近くまで行ったら、パトカーめっちゃ停まってるんですよ。
はい、ニュースになってましたよね、女子高生が通り魔に刺されて死んだ事件。犯人すぐ捕まったみたいですけど。あれ、うちの近所なんです。
あの子、その、殺された子ですけど、本当にいたんだなって。僕の夢の中じゃなくて、現実にいたんだなって、その時わかったんです。だって一緒だったんですよ、ニュースで見た犯人の顔と、僕が夢で見た顔。
それで? って、いやこれで終わりじゃないんですよ、先生。終わりならこうして先生のところに来てないじゃないですか。終わってないんですよ。
夢、まだ見るんですよ。
真っ暗なんですよ。全部真っ暗で何も見えないんですよ。歩けるんですけど、どこ行っても、どこまで行ってもずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと真っ暗なんですよ。
真っ暗な中に自分だけがいるんですよ。自分の意識だけがあるんです。他に何もないんです。
次の週も見たんですよ。その真っ暗な夢。その次の週も。次の週も。
ねえ先生、これなんですか? おかしいじゃないですか。死んだら終わりじゃないんですか? あの子今どこにいるんですか?
ほら、クマできてるでしょ、眠れないんですよ。眠りたくないんですよ。もうあそこに行きたくないんですよ。
先生、ねえ、先生。助けてくださいよ。どこなんですか、あそこ。
先生、助けて。
たすけて
よみのゆめ 霧沢夜深 @yohuka1999
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